「絃乃さんを解放してもらいましょうか」
降って湧いたような声に振り返ると、入り口に詠介の姿を見つけた。焦ってここまで来たのか、少し息が切れている。
「え、詠介さん? どうして、葵が来るはずなんじゃ……」
「彼はここには来ませんよ。僕だけです」
その言葉に真っ先に反応したのは朽葉だった。
「話が違う! 葵をおびき寄せるために、姉である絃乃を餌にしたんだ。貴様、一体何をした?」
「何って……葵くん宛ての手紙を先に読んだだけのことです」
飄々と詠介が答えると、それまでは余裕を保ってきた朽葉が歯がみした。
(どうやら予定が狂ったみたいね……あとはどうやって、彼を追い詰めるかだけど)
目線で合図をすると、詠介がわかっているように小さく頷く。だが、安心したのもつかの間、第三者の声が思考を乱す。
「姉さん、詠介兄さん。……ごめん」
息せき切ってきたのは葵だった。本命の登場に朽葉は余裕を取り戻し、両手を広げて歓迎する。
「やあ、探していたよ。白椿葵くん。いや、今は須々木葵くんだったかな?」
「姉さんを解放してください」
「いいだろう。でもその前に、隠し財産の場所を教えてもらおうか」
「…………」
葵が逡巡するような間を置き、絃乃は声を張り上げる。
「だめよ、葵。この人は全員を始末するつもりなんだから」
「……静かにしてもらえますかね。それとも自分の立場がわからないとでも?」
「…………」
銃口を向けられたまま、朽葉を見つめると、葵がため息をついた。
「隠し財産がほしいならあげるよ。だけど、姉さんを無傷で返してもらうのが条件だ」
「危害を加えられたくないのなら、先に隠した場所を吐いてもらおうか」
緊迫した状況の中で、葵は胸元から筒状のものを取り出して、朽葉の足元に投げる。それを見下ろし、朽葉が怪訝な声を出す。
「これは?」
「お前が探していたやつだよ。あの場所に行っても何もない。数年前に掘り起こしたんだから。さあ、約束だ。姉さんを解放してくれ」
朽葉が銃口を下げ、巻物を手に取る。
だがまだ安心はできない。獲物は今だ朽葉が握りしめているのだから。絃乃は逃げ出したい衝動を抑え、葵と詠介を交互に見つめる。
二人から心配の視線を向けられ、逃げ出す隙を窺う。
しかし、朽葉は巻物を胸元にしまい込むと、再び拳銃を構えた。
「……確かに受け取った。だが正体を知られたからには生かしておけない。三人とも、そこに一列に並んでもらおうか」
詠介と葵が両手を挙げ、おとなしく絃乃の横に立つ。並んだ三人の顔を順番に見て、拳銃の引き金に指を乗せる。銃口の先は苦い顔をした葵に向けられる。
しかし、闇に紛れた草陰から人影が葵の前に立ち塞がる。雲が流れた月明かりの下、浮かび上がったのはよく見知った姿だった。
降って湧いたような声に振り返ると、入り口に詠介の姿を見つけた。焦ってここまで来たのか、少し息が切れている。
「え、詠介さん? どうして、葵が来るはずなんじゃ……」
「彼はここには来ませんよ。僕だけです」
その言葉に真っ先に反応したのは朽葉だった。
「話が違う! 葵をおびき寄せるために、姉である絃乃を餌にしたんだ。貴様、一体何をした?」
「何って……葵くん宛ての手紙を先に読んだだけのことです」
飄々と詠介が答えると、それまでは余裕を保ってきた朽葉が歯がみした。
(どうやら予定が狂ったみたいね……あとはどうやって、彼を追い詰めるかだけど)
目線で合図をすると、詠介がわかっているように小さく頷く。だが、安心したのもつかの間、第三者の声が思考を乱す。
「姉さん、詠介兄さん。……ごめん」
息せき切ってきたのは葵だった。本命の登場に朽葉は余裕を取り戻し、両手を広げて歓迎する。
「やあ、探していたよ。白椿葵くん。いや、今は須々木葵くんだったかな?」
「姉さんを解放してください」
「いいだろう。でもその前に、隠し財産の場所を教えてもらおうか」
「…………」
葵が逡巡するような間を置き、絃乃は声を張り上げる。
「だめよ、葵。この人は全員を始末するつもりなんだから」
「……静かにしてもらえますかね。それとも自分の立場がわからないとでも?」
「…………」
銃口を向けられたまま、朽葉を見つめると、葵がため息をついた。
「隠し財産がほしいならあげるよ。だけど、姉さんを無傷で返してもらうのが条件だ」
「危害を加えられたくないのなら、先に隠した場所を吐いてもらおうか」
緊迫した状況の中で、葵は胸元から筒状のものを取り出して、朽葉の足元に投げる。それを見下ろし、朽葉が怪訝な声を出す。
「これは?」
「お前が探していたやつだよ。あの場所に行っても何もない。数年前に掘り起こしたんだから。さあ、約束だ。姉さんを解放してくれ」
朽葉が銃口を下げ、巻物を手に取る。
だがまだ安心はできない。獲物は今だ朽葉が握りしめているのだから。絃乃は逃げ出したい衝動を抑え、葵と詠介を交互に見つめる。
二人から心配の視線を向けられ、逃げ出す隙を窺う。
しかし、朽葉は巻物を胸元にしまい込むと、再び拳銃を構えた。
「……確かに受け取った。だが正体を知られたからには生かしておけない。三人とも、そこに一列に並んでもらおうか」
詠介と葵が両手を挙げ、おとなしく絃乃の横に立つ。並んだ三人の顔を順番に見て、拳銃の引き金に指を乗せる。銃口の先は苦い顔をした葵に向けられる。
しかし、闇に紛れた草陰から人影が葵の前に立ち塞がる。雲が流れた月明かりの下、浮かび上がったのはよく見知った姿だった。



