乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

「詠介兄さん、入るよ」

 襖を開けるが、中に目当ての人物はいない。

「いないなんて珍しいな。外にでも出ているのかな……」

 葵は小綺麗にしている部屋をぐるりと見渡し、文机の上に置きっぱなしだった紙に目が留まる。無造作に置いたままの様子は詠介らしくない。
 なんだろうと興味心が勝って、乱暴に折りたたまれた紙をゆっくりと開く。そして絶句した。

「これ……まさか」

 いや、間違いない。真面目な彼のことだ。真実かどうか、自ら確かめに行ったに違いない。自分に危険が及ばないように、あえて一人で行ったのだろう。

「……っ」

 こうしてはいられない。
 手紙の宛先は詠介ではなく自分。そして送り主に書かれていた名前は姉だった。どうして詠介が自分宛ての手紙を持っていたのか、疑問はあるが、面倒事に巻き込みたくなかったのだろうことは想像に難くない。
 書生部屋に戻り、文机の引き出しに隠していた筒を懐に差し入れる。

(自分はどうなってもいい。だけど彼らに何かあれば……)

 二人とも無事でいてくれるよう祈りながら、黄昏の都を走る音が闇に響いていた。