乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 荒唐無稽な話を聞いているようで、瞬きを繰り返す。
 そんな娘の反応は予想の範疇だったのか、曉久は唇を引き結んでいる。絃乃が落ち着くのを待っているような間が続き、堪えきれずに口を開ける。

「どういうことですか? お父様のせいとは?」
「我が白椿家には、お上から下賜された家宝がある。売れば、そこそこの高値がつく掛け軸だ。代々、次期当主が十歳になったときに、それを誰にも見つけられない場所へ隠し、守り抜くことを言いつけられるのだ」

 まるで子供遊びだ。しかし、渋面の父親の顔を見る限り、それが真実なのだと理解せざるを得なかった。
 絃乃は畳に視線を落とし、言葉を絞り出すようにして言う。

「……まさか、そのために?」
「あの夜は、掛け軸の話をした日だった。あの子を信じ、掛け軸を託した。そして、朝になったとき、息子の姿はどこにもなかった。……あの掛け軸も一緒にな」
「では、なくなったのは葵だけではないと?」
「そうだ。家宝の掛け軸も姿を消した」

 新たな事実に、絃乃はしばし呆然とする。

(なくなったのは葵だけじゃなかった……掛け軸も同時に消えていたなんて)

 父親はそれを誰にも言えず、今まで自分の胸にだけ留めていたのだろう。秘密をずっと抱えていた心中はどれほど複雑だっただろう。

「……後悔していらっしゃるのですか?」
「後悔……そうだな。後悔している」
「…………」
「葵は頭の回る子だ。何かよからぬ事件に巻き込まれたのだと思う。あるいは、今もどこかで息をひそめて暮らしているのやもしれん……」

 希望的観測の言葉だ。だが、現に葵は生きている。絃乃はその言葉を否定できない。

「このことをお母様はご存じなのですか?」
「いや……余計な気苦労をかけたくなくて、話したことはない」
「ならば。どうして、私にお話してくれたのですか?」
「なぜだろうな。お前には話しておかねばならない気持ちに駆られたのだ」
「そう……ですか」

 それから二言三言話して、自室へ戻った。あまりの動揺でどう言葉を返したか、わからない。混乱したまま、畳の上に正座になる。
 動悸がする胸を落ち着けようと、呼吸を止めて息を全部吐き出す。それから息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

(これで話はつながったわ……)

 葵は掛け軸を守るために、家に帰ってこられないのだ。