乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

「ああ、ちょうどよかった。少し話がある。ついてきなさい」

 父の曉久(あひきさ)に呼び止められ、絃乃は振り返る。
 彼はすでに背を向けており、奥座敷に向かっていた。娘が反抗するとは露にも思っていないのだろう。
 致し方なく、しずしずと父親の後を追う。襖を閉め切ると、上座にいた父親が目線で座るように促す。一体何の話だろうと思いながら、居住まいを正して正座になる。

「早いもので、お前も十六だ。もう、いつお嫁に行ってもおかしくない歳になった」
「はい」

 婚約者の話だろうか。だがそれは、まだ早いという結論に至ったのでは。
 もしくは何かの心境の変化でもあったのか。縁談の話なら、できれば聞きたくないのだが、白椿家の未来を思えば、子供のように突っぱねることもできない。
 さて、ここはどう対応するのが最良か。
 父親は遠い目をして、袖口の中に手を入れる。絃乃にはその行動が、自分の心を守るための防衛反応に思えてならなかった。

「……葵が行方不明になったのは、六年前の今日だったな」

 ぽつりと、こぼれた声に心の中で同意する。
 憂い顔だったのは、昔のことを思って感傷的になっていたせいかもしれない。

(でも、葵が生きていたことは、まだ話せない……)

 息子が息災だったと知れば、きっとどれだけ喜ぶか、想像に難くない。しかし、今はまだ駄目だ。彼をこの家に取り戻すには、やるべきことがある。
 本当はすべてを話して安心させてあげたい。だけど、弟を守るためには今は口を噤まなければならない。葛藤にもだえていると、曉久の視線が畳の上をすべる。

「……これは墓まで持っていこうと思っていたのだが、今朝、葵の夢を見て気が変わった」
「夢を見られたのですか?」
「ああ。葵も大きく成長して、家族皆で笑う夢だった」
「……いい夢だったんですね」

 曉久はそうだなと相づちを打ち、思案に暮れた顔で両腕を組む。

「……私の罪を聞いてくれるか」
「罪、ですか? それは、どのような?」

 小首を傾げると、覚悟を決めたような瞳がスッと細められる。

「六年前の夜、息子が行方をくらましたのは私のせいなのだ」

 言っている意味がわからなかった。脳内でリピートするが、理解が追いつかない。

(失踪事件の原因が、お父様……?)