乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 やはり、先日の閉じ込められた件は好感度が足りなかったのが原因だったのだ。
 百合子は八尋ルートを攻略中のため、謎解きルートには参加しない。したがって、ヒロイン不在で、このルートをクリアしなければならない。

(本当にできるかしら。……ううん、できるかどうかではなく、やるかやらないかよね)

 葵を救う。その目的のためならば、手段は選んでいられない。
 詠介は視線を地面にそらし、ただ、と前置きした。

「僕は百合子さんの恋の手助けは多少できますが、核心に迫る場面での介入は禁じられています。これから起こる出来事の概略も知っていますが、細かいところまでは把握していません。もちろん、僕が犯人と対峙するのも難しいです。そういう役割ではありませんから」
「なるほど。だいたいは理解しました。……今は葵はどうしているんです? ここには来ていませんよね?」
「そうですね……。この時間は家で勉強をしているはずですよ」

 絃乃は小首を傾げ、真面目な顔の詠介を見やる。

「でも、さっきの話を聞いた限りでは、詠介さんができることって限られていますよね? どうやって葵を守るんですか?」
「……世の中には多くの例外があります」

 まるで内緒話をするように、人差し指を口元にあてて、詠介が密やかに言う。

「百合子さんの未来を変えることには介入できない決まりですが、彼女は葵くんと接触していません。つまり、僕の行動による影響はないものと考えられます」
「それって……」
「そうです。本来はできないことも、葵くんのことに限っては見逃されるということです」

 本来のルートに支障がないからか。そうだとしても、彼の立場上、結構ギリギリの綱渡りなのではないだろうか。

「これは僕の推測ですが……犯人はまた絃乃さんと接触してくると見込んでいます」
「どうしてですか? 一度、失敗したのに?」

 一度は確かに閉じ込められた。だが篝のおかげで危機は脱出した。その後に行方不明事件が起きたから、絃乃の身は安全なのではないか。
 その疑問に答えるように、詠介は声のトーンを少し下げて説明する。

「葵くんにとって、絃乃さんは特別な存在です。つまり、おびき出すには格好の標的だということです」

 犯人にとって、自分はまだ利用価値のある存在だということだろう。

「……では、逆に、私が囮になって犯人を追い詰めることも可能と?」
「可能でしょう。ですが、これは最後の手段にとっておきたいです。あなたの身が危険にさらされるのですから」
「ですが、葵が一人で犯人と対峙するよりはいいですよね?」
「それは……まあ。彼一人でどうにかできる相手ではないでしょうからね」

 犯人は今この瞬間も、その機会を待っているのだとしたら。

(逃げ場はないのかもしれない)