乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

「では、その危険を冒して……?」
「そうです。百合子さんが藤永さんを選んでしまった以上、あなたを助けに来るはずの葵くんは来ない。それがわかってしまったから、なんとかできないかと……。結果的に、篝さんの機転で難を逃れましたが」

 絃乃が知らないことも、彼ならば知っている。謎解きルートについても、おおよその流れは把握しているだろう。

「……未来を知っていたなら当然、犯人の正体も……?」

 ごくりと喉を鳴らす。犯人がわかれば、弟を取り戻すこともできるかもしれない。
 期待が大きくなったところで、詠介が言葉を濁す。

「すみません。それは僕の口からは答えられない決まりなんです。僕もすべてを知っているわけではなくて。犯人に近づくためには、葵くんの協力が必要ということだけしか知らないんですよ」
「……そうなんですね」

 はっきり言って拍子抜けだ。真相に近づけると思ったが、現実はそう甘くはないらしい。

「葵は誰かから逃げているって言っていました。それが今回の犯人ということですか?」
「……ええ。そうだと思います」
「葵の記憶喪失については……他に何か知っていることはありますか……?」

 過去、何があったのか。それを知るきっかけになればと繰り出した質問だったが、詠介は意外だったようで目を丸くしていた。

「絃乃さんは、彼の正体もすでに知っているようですね」
「……彼は白椿家の人間です。神隠しにあったと思っていた、私のたった一人の弟です。彼が記憶を思い出すと、何か困るのでしょうか?」
「六年前、葵くんは見てはいけないものを見てしまったとか。だから記憶が戻らないふりをしているようですが、最近の彼は何かに焦っているようです」

 困ったように眉を下げるのを見て、絃乃は首を傾げる。

「焦っている……?」
「おそらくですが、あなたに出会ったからではないかと」
「私のせい、ということですか?」

 思い出すのは、家の前で再会したときの顔。数年ぶりの再会で、お互いが誰だかわからずに会話した日が懐かしく感じる。
 すがるような瞳で見つめると、詠介は小さく頷いた。

「お姉さんに心配をかけさせたくないのでしょう。だから、犯人と一人だけで接触してどうにか解決しようとしている、と考えている可能性が高いです」
「そんな! それでは、葵が危険じゃありませんか」
「ええ、おっしゃるとおりです。彼を一人にするのは得策ではありません。ですから、ここは手を組みませんか?」

 以前と同じような誘いに、絃乃は体を硬直させる。

(今回は百合子の恋路を応援するときとは違う。あのときと比べて格段に危険だし、何が起こるかもわからない)

 ヒロインの代わりに謎解きルートをクリアし、弟を救う。サブキャラクターが出しゃばるなんて、シナリオを無視した行動だし、何の弊害があるかもわからない。
 けれど、迷っていられる時間も少ない。

「……助けられますか? 私に」
「絃乃さんの力が必要です。もちろん、僕もできうる限りで助けるつもりですし、あなたのことは僕が守ります」

 まるで恋愛小説のような台詞に、思わずまじまじと見つめてしまう。
 だが詠介は真面目な顔を向けるだけで、噓や冗談を言っている様子は微塵もない。先ほどの力強い励ましは、彼の純粋な言葉なのだろう。
 そこまで理解して、絃乃は動悸でめまいがした。両手で胸を押さえるが、さっきから心臓の音が激しい。

(だって守るって……私はヒロインじゃないのに?)