お茶の稽古が終わって外に出ると、金木犀の香りが鼻腔をくすぐる。青々とした葉の中で、赤く色づき始めた葉もちらほらとある。
(秋の香りだわ)
気持ちが弾み、歩く足取りも軽くなる。読書の秋だが、食欲の秋でもある。秋の味覚を思い出しながら歩いていると、見覚えのある警官が見えた。
柔和な笑顔はなりをひそめて、身なりの派手な男に封筒を手渡している。
(あの封筒はお金……かしら?)
なんとなく出て行きづらい場面だ。派手な男がお金の勘定を数え、札束を封筒の中に押し込んで胸元に入れる。一言二言の言葉を交わし、反対方向へ去っていく。
気づかれない間に路地裏から退散しようとしていると、不意に視線が交差した。
「見られてしまいましたか」
「あ、あの……」
朽葉は人好きのする笑みを浮かべ、ゆっくりと前に足を進める。追い詰められた兎のように縮こまっていると、朽葉は膝を曲げて目線が同じ高さになる。
「雛菊さんには内緒にしていただけませんか? こういったことを知られるので恥ずかしいので」
「も、もちろん。決して、他言いたしません!」
「お願いしますね」
こくこくと頷き返すと、安心したのか、朽葉はそのまま背を向けて歩き出す。その足取りはどこか急いでいるように見えた。
(まさか借金? いやいや、単に家賃の集金だったかもしれないし……)
ぶるぶると頭を振る。余計なことは考えてはならない。彼は雛菊の婚約者なのだ。きっと思い過ごしだろう。そう結論づけ、絃乃は先を急いだ。
(秋の香りだわ)
気持ちが弾み、歩く足取りも軽くなる。読書の秋だが、食欲の秋でもある。秋の味覚を思い出しながら歩いていると、見覚えのある警官が見えた。
柔和な笑顔はなりをひそめて、身なりの派手な男に封筒を手渡している。
(あの封筒はお金……かしら?)
なんとなく出て行きづらい場面だ。派手な男がお金の勘定を数え、札束を封筒の中に押し込んで胸元に入れる。一言二言の言葉を交わし、反対方向へ去っていく。
気づかれない間に路地裏から退散しようとしていると、不意に視線が交差した。
「見られてしまいましたか」
「あ、あの……」
朽葉は人好きのする笑みを浮かべ、ゆっくりと前に足を進める。追い詰められた兎のように縮こまっていると、朽葉は膝を曲げて目線が同じ高さになる。
「雛菊さんには内緒にしていただけませんか? こういったことを知られるので恥ずかしいので」
「も、もちろん。決して、他言いたしません!」
「お願いしますね」
こくこくと頷き返すと、安心したのか、朽葉はそのまま背を向けて歩き出す。その足取りはどこか急いでいるように見えた。
(まさか借金? いやいや、単に家賃の集金だったかもしれないし……)
ぶるぶると頭を振る。余計なことは考えてはならない。彼は雛菊の婚約者なのだ。きっと思い過ごしだろう。そう結論づけ、絃乃は先を急いだ。



