教室でお弁当を広げながら、絃乃は窓の外を見つめた。外は突き抜けたような空で、樹の上部が赤く色づき始めている。もうしばらくすれば紅葉も見頃だろう。
(連続失踪事件の次の被害者は、本当なら私だったのよね……)
号外新聞で報道されていた令嬢は数日後には無事帰宅したらしいが、身代わりだと思うと到底、他人事だとは思えない。
しかし、買収されていたボーイの足取りもわからない今、絃乃ができることは何もない。
(それに……両思いだとわかったけれど……あれから進展はなしなのよね)
詠介と思いを通じ合わせたものの、表立って交際を始めるわけにもいかず、結局はいつも通りの日常を過ごしている。
思い悩む絃乃の耳に、百合子のおっとした声が滑り込む。
「何だか、嬉しそうね」
「うふふ。わかる?」
「何があったの? 幸せを独り占めだなんて、よくないわ」
雛菊は頬に手を当てて、口元をゆるめた。
「昨日、婚約指輪をいただいたの。大粒のルビーの指輪よ。わたくし、指輪をもらったのは初めてだから、昨日はずっと眺めていたわ」
左手を掲げて、薬指をそっと撫でる。まるでそこにはめてあった指輪を愛でているような動きだ。百合子が相づちを打つ。
「へえ、よかったわね。公隆さんが選んでくださったの?」
「そうなの。私には赤い宝石が似合うんですって」
いつもは自慢話はほとんどしない雛菊が言うのだから、よっぽど嬉しかったのだろう。
夢見がちに微笑む顔を見て、百合子が羨望の眼差しを向けた。
「いいわねぇ」
「……百合子?」
絃乃の問いかけに、百合子は恥ずかしそうに目を伏せた。
「うらやましいなと思って。私はどのくらい好かれているのか、ときどき不安に思うの」
「何言っているの。あなたたちは誰が見ても相思相愛じゃないの。二人の寄り添う姿を見るだけで、こっちは胸焼けがしそうよ」
雛菊が言うと、百合子は遠慮がちに首を横に振った。
「だけど、私では初恋の君には勝てないわ……」
「初恋の君?」
「彼、許嫁同然に育った幼なじみがいたらしいの。彼女は若くして空に旅立ったらしいのだけど……八尋様は、今でも彼女のことが忘れられないみたい」
百合子の箸は止まっている。絃乃は雛菊と目を合わせ、アイコンタクトを取る。
彼女に悲しい顔は似合わない。のどかな笑顔が一番似合う。
「過去は変えられないけど、今は百合子のことを大切に思ってくれているのでしょう? 思い出が気になるのもわかるけど、信じて待つことも大事なのではなくって?」
雛菊の励ましに絃乃も同調する。
「そうよ。百合子はこんなに魅力的なんだもの。不安になる必要はないわ。もし、百合子に不満があるっていうのなら、私たちが懲らしめてやりますとも。ねえ、雛菊?」
「もちろんですわ」
百合子は感極まったように目元を潤ませ、二度頷く。
(どうやら気持ちは伝わったようね……)
このぶんなら、ゲームのエンディングは心配ないだろう。残る懸念は葵――弟のことだけだ。彼を救うために自分にできることは何があるだろう。
(詠介さんの力を借りるには……すべてを話すしかない。でも信じてもらえるかは賭けになる)
秋の装いになった校庭を見下ろしながら、絃乃はそっと息をついた。
(連続失踪事件の次の被害者は、本当なら私だったのよね……)
号外新聞で報道されていた令嬢は数日後には無事帰宅したらしいが、身代わりだと思うと到底、他人事だとは思えない。
しかし、買収されていたボーイの足取りもわからない今、絃乃ができることは何もない。
(それに……両思いだとわかったけれど……あれから進展はなしなのよね)
詠介と思いを通じ合わせたものの、表立って交際を始めるわけにもいかず、結局はいつも通りの日常を過ごしている。
思い悩む絃乃の耳に、百合子のおっとした声が滑り込む。
「何だか、嬉しそうね」
「うふふ。わかる?」
「何があったの? 幸せを独り占めだなんて、よくないわ」
雛菊は頬に手を当てて、口元をゆるめた。
「昨日、婚約指輪をいただいたの。大粒のルビーの指輪よ。わたくし、指輪をもらったのは初めてだから、昨日はずっと眺めていたわ」
左手を掲げて、薬指をそっと撫でる。まるでそこにはめてあった指輪を愛でているような動きだ。百合子が相づちを打つ。
「へえ、よかったわね。公隆さんが選んでくださったの?」
「そうなの。私には赤い宝石が似合うんですって」
いつもは自慢話はほとんどしない雛菊が言うのだから、よっぽど嬉しかったのだろう。
夢見がちに微笑む顔を見て、百合子が羨望の眼差しを向けた。
「いいわねぇ」
「……百合子?」
絃乃の問いかけに、百合子は恥ずかしそうに目を伏せた。
「うらやましいなと思って。私はどのくらい好かれているのか、ときどき不安に思うの」
「何言っているの。あなたたちは誰が見ても相思相愛じゃないの。二人の寄り添う姿を見るだけで、こっちは胸焼けがしそうよ」
雛菊が言うと、百合子は遠慮がちに首を横に振った。
「だけど、私では初恋の君には勝てないわ……」
「初恋の君?」
「彼、許嫁同然に育った幼なじみがいたらしいの。彼女は若くして空に旅立ったらしいのだけど……八尋様は、今でも彼女のことが忘れられないみたい」
百合子の箸は止まっている。絃乃は雛菊と目を合わせ、アイコンタクトを取る。
彼女に悲しい顔は似合わない。のどかな笑顔が一番似合う。
「過去は変えられないけど、今は百合子のことを大切に思ってくれているのでしょう? 思い出が気になるのもわかるけど、信じて待つことも大事なのではなくって?」
雛菊の励ましに絃乃も同調する。
「そうよ。百合子はこんなに魅力的なんだもの。不安になる必要はないわ。もし、百合子に不満があるっていうのなら、私たちが懲らしめてやりますとも。ねえ、雛菊?」
「もちろんですわ」
百合子は感極まったように目元を潤ませ、二度頷く。
(どうやら気持ちは伝わったようね……)
このぶんなら、ゲームのエンディングは心配ないだろう。残る懸念は葵――弟のことだけだ。彼を救うために自分にできることは何があるだろう。
(詠介さんの力を借りるには……すべてを話すしかない。でも信じてもらえるかは賭けになる)
秋の装いになった校庭を見下ろしながら、絃乃はそっと息をついた。



