乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

「え、えっと。ちょっと夜風に吹かれたい気分だったから……」
「ともかく戻ってきてくれて安心したわ」

 とっさの言い訳は疑われなかったようで、百合子のもとへ連れて行かれる。その途中、何か強い視線を感じて足を止める。

「……?」

 そろりと振り向くが、ホールに集まった紳士淑女はそれぞれ談笑している。怪しい人物はどこにもいない。

(気のせい……かしら。穏やかじゃない視線を向けられていた気がしたのだけど……)

 絃乃が倒れないように付き添っていた詠介が不思議そうに尋ねる。

「……絃乃さん? どうしました?」
「ああ、いえ。なんでもないです」

 百合子は深刻な様子で八尋と話し合っていたが、絃乃が姿を見せるとパッと顔を上げた。

「絃乃さん、どこに行っていらしたの?」
「心配させて、ごめんなさい。外の風にあたっていただけなの」
「最近は令嬢失踪事件もあるし、絃乃さんがさらわれたんじゃないかって、心配で……。でも無事なようで安心したわ」

 涙をためた顔を見て、罪悪感に駆られる。

(本当は何者かに閉じ込められていたんだけど、話したら余計心配させるだけよね)

 詠介が駆けつけてくれたが、結局二人とも閉じ込められてしまった。篝が来てくれなかったら、この会場には戻れずにいただろう。

(土蔵に連れて行ったボーイはもう逃げた後みたいね。共犯者っていう見方もあるけど、お金をつかまされた臨時の雇い人っていう線もあるし)

 気になるのは先ほどの視線。殺気のような強い視線は、ボーイをそそのかした犯人の可能性が高い。ということは、今もこの会場にいるということになる。
 一体、誰が犯人なのか。攻略相手のメンバーが犯人なのか、それとも違う人か。

(犯人にとって、私がここに戻ってきたのは計算違いのはず)

 万が一の事態に備えて、周囲には警戒しておかなければならない。だけど、その日も翌日以降もいつもの日常が過ぎていくだけだった。
 ぬるま湯のような日々に、最初は緊張して過ごしていた絃乃も徐々に警戒をゆるめていく。さらに数日が経過し、号外新聞では新たな令嬢の失踪事件が大きく報道されていた。