乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 あれから、どのくらい経っただろう。もしかしたら、そんなに時間は経っていないのかもしれない。
 突如、扉をたたく音がして息をのむ。

「おいっ! 誰かいるか!」
「っ……」

 目を見合わせ、詠介がゆっくりと体を離す。
 入り口のほうに近づき、声を張り上げた。

「閉じ込められているんです! 鍵を開けてもらえませんか」
「お前は誰だ?」
「絃乃さんの連れの佐々波です。彼女も一緒です。助けてください」

 詠介が嘆願するように言うと、外で悩むような沈黙があった。だが、少しして閂が外される音がして、観音開きの扉がゆっくりと開かれる。
 外の空気が入ってきて、埃がふわりと浮かぶ。外にいた男は呆れたように言った。

「……本当にいるとはな」
「ありがとうございます。助かりました」

 詠介に手を引かれて、蔵の外へ出る。
 篝が疲れたような二人の顔を見て、首を傾げた。

「なんだって、こんなところに監禁されていたんだ? しかも二人揃って」
「さあ、わかりません。犯人は絃乃さんだけを閉じ込めたかったのかもしれませんが、僕が来てしまったので、一緒に閉じ込められたようです」
「犯人の顔は? 見ていないのか?」
「…………」

 篝の質問に、絃乃はゆるく首を横に振る。
 あのときは気が動転していて、閉まっていく扉の音しか聞いていない。それは詠介も同じだったようで、うつむいてしまう。
 最初に閉じ込めた犯人と、詠介が助けに来てから閂を締めた犯人が同一人物かはわからない。ここに連れてきたボーイもすでに逃げた後かもしれない。

「一体、何の目的だったかはわからないが。まあ、無事で何よりだった」
「そういえば、篝さんはなんでこんなところに?」

 詠介のもっともな質問に、絃乃も篝を見つめる。彼は首の後ろに手を当てて、勘だよ、と小さくつぶやいた。

「これからダンスが始まるのに、絃乃お嬢さんの姿が見えないし、百合子お嬢さんに聞いても知らないみたいだし。それに、一言もないまま帰る性格とも思えなかったからな。だから、念のために敷地内を探していたんだ。そしたら、閂が中途半端に閉まっている蔵があったからよ。まさかと思いながら、呼びかけたってわけだ」

 ぶっきらぼうな口調だけど、心底心配してくれたことが伝わり、絃乃は胸に迫るものがあった。
 だけど、それを悟られるのは妙に気恥ずかしくて、可愛げのない声を返してしまう。

「……正義感が強いんですね」
「ったく、感謝しろよ? この記者魂がなかったら、お前らはまだ閉じ込められていたんだろうからな」
「……篝さん。本当にありがとうございます。おかげさまで、これからも生き延びられます」

 詠介が丁寧に頭を下げると、篝がおもむろに目を泳がした。

「そこまで丁寧に言われると対応に困るな……」
「もう、篝さんが言ったんじゃないですか」
「とにかく戻るぞ。……どこも怪我とかしてないだろうな?」
「幸い、無事です」

 よろめく肩を詠介に介抱されながら会場に戻ると、雛菊が真っ先に駆け寄ってきた。

「よかった。ダンスの時間になっても姿が見えないから、心配していたのよ」