乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 ボーイのエスコートで、会場の外に出る。
 百合子の父親は気さくな人で、海外で手に入れた珍しい舶来品をよく見せてくれる。今日も何か特別な品が手に入ったに違いない。
 けれど、いつものように応接室に行くのかと思いきや、漆喰の壁に囲まれた土蔵の前に来ていた。
 閂を開けて扉が開くと、奥には闇が広がるばかり。幽霊が出そうな雰囲気に怖じ気づきそうになっていると、ボーイはすたすたと闇の中に入っていく。仕方なしに後ろをついていくと、先に入っていたはずの彼の姿が見えない。

(明かりがないと、目当ての品物もわからないんじゃないかしら)

 気配をたどろうと、ゆっくり奥まで足を進めたところで、不意に外の明かりが小さくなる。なんだろうと振り返れば、扉が閉まるところだった。呆然とその様子を見つめていると、扉が完全に閉まってしまう。
 そこでようやく、閉じ込められた、という事実に遅れて気づく。

(……うう。一生の不覚! これじゃ、ゲームどおりに私は消される運命に? いやいや、そんなの願い下げなんですけど!)

 断固として、不幸なナレーションがつく未来はいらない。
 隠しキャラクターの書生は葵だと思っていたが、もしや彼の好感度が足りなかったか。もしくは回避イベントを起こしていなかったからか。

(謎解きイベントは、ヒロインである百合子じゃないとクリアできないってこと?)

 所詮、今の自分はヒロインの友人という脇キャラクターである。好感度調整や、それに伴う専用イベントはヒロインでなければできない、ということか。
 しかし、まだ諦めるのは早い。脇キャラクターとはいえ、前世の知識でここまでやってきた。実っていない恋もある。
 こんなところで閉じ込められている場合ではないのだ。
 絃乃は扉を開こうと指に全力を入れるが、重い扉は女の力ではびくともしない。

「誰か! 誰かいますか!?」

 大声で助けを呼ぶが、当然ながら返る声はない。
 目の前はどこまでも続く暗闇。埃っぽい空間の中、一人きりだ。
 もう、手遅れなのかもしれない。すべてはゲームのシナリオどおりに、途中退場となるのだろう。ヒロインでもない自分を助けてくれるヒーローなんて、来るはずがないのだから。
 一気に不安が体を駆け抜け、目尻に涙がたまる。

「……っ……」

 諦めと悲しみで胸が支配されて、その場にうずくまる。すると、前触れもなく開かずの扉が開いた。
 扉の隙間から光が差し込み、思わず目を細める。

「そこにいるのは絃乃さんですか?」