「そんなに難しい顔をして、どうなさったの?」
「……雛菊。それに百合子も……」
「こんばんは。来てくれたのね。嬉しいわ」
百合子は、首元までレースで覆った紅のドレスを纏い、扇を片手に持っている。
反対に雛菊は胸元の開いた琥珀色のドレスに、膝下には黄緑の薄いレースが重ねてあり、可愛らしいデザインだ。
「それで、絃乃さんのパートナーはどなたなのかしら?」
代表して百合子が尋ねると、篝と対峙していた詠介が名乗りを上げる。
「僕です」
「まあ、あなたが?」
「はい。佐々波詠介と申します。ご友人方もどうぞお見知りおきを」
百合子は扇を広げ、驚いたように目を瞬かせている。
(無理もないわね。私が逆の立場だったら、絶対驚いていたと思うし)
いくらなんでも、ゲーム案内役が友人の知人だったとは思わなかっただろう。雛菊は興味深そうに、目礼する詠介を不躾に観察している。
その向こうで、篝がそろりと後退していくのが見えた。この場にいては女性陣の好奇の視線にさらされると思ったのだろう。賢明な判断といえる。
ふと雛菊が口を開きかけたところで、彼女を呼ぶ声が背後からした。
「ああ、雛菊さん。ここにいたんですね」
そこには二十代後半の優男がいた。燕尾服を着こなし、口元には小さな笑みを浮かべている。温厚そうな表情だが、初めて見る顔だ。
疑問が顔に出ていたのだろう。雛菊が慌てて彼の横に並ぶ。
「百合子、絃乃。……紹介するね。こちら、朽葉公隆さん。わたくしの婚約者よ。お仕事は警官で、八等警部でいらっしゃるのよ」
「ご紹介に与りました、朽葉です。どうぞよろしく」
軽く頭を下げて挨拶する彼は一見、穏やかだが、キビキビとした動作は職業の賜物だろうか。隙のない動きに圧倒されていると、百合子が口を開く。
「朽葉様のお話はかねがね……とても優しい方だと伺っておりますわ」
「そう言われると、面映ゆいものですね。私も雛菊さんからお二人の話をよく聞いておりますよ。絃乃さんの弟君についても……。及ばずながら、私も彼の力になりたいと思っています」
「あ、ありがとうございます」
申し出に面食らいながらお礼を述べていると、それまで無言で成りゆきを見守っていた詠介が小声で囁く。
「すみません。お客人の中に取引先の方がいるので、挨拶に行ってきますね」
「ああ、はい。わかりました」
大人は大変だ。社交辞令をしたり、相手の自慢話に相づちを打ったり、やりたくないことも愛想笑いでごまかして生きていかなければならない。
今は女学生の身だから挨拶回りも大してないが、他人事でいられる時間も少ないだろう。
去っていった詠介の後ろ姿を見送っていると、見慣れないボーイが近くにいた。年若い少年は真面目な顔で、淡々と用件を話す。
「実は、旦那様からお嬢様のご友人である絃乃様に、ぜひお目にかけたいものがあると。恐縮ですが、ご足労願えないでしょうか?」
「……わかりました」
「……雛菊。それに百合子も……」
「こんばんは。来てくれたのね。嬉しいわ」
百合子は、首元までレースで覆った紅のドレスを纏い、扇を片手に持っている。
反対に雛菊は胸元の開いた琥珀色のドレスに、膝下には黄緑の薄いレースが重ねてあり、可愛らしいデザインだ。
「それで、絃乃さんのパートナーはどなたなのかしら?」
代表して百合子が尋ねると、篝と対峙していた詠介が名乗りを上げる。
「僕です」
「まあ、あなたが?」
「はい。佐々波詠介と申します。ご友人方もどうぞお見知りおきを」
百合子は扇を広げ、驚いたように目を瞬かせている。
(無理もないわね。私が逆の立場だったら、絶対驚いていたと思うし)
いくらなんでも、ゲーム案内役が友人の知人だったとは思わなかっただろう。雛菊は興味深そうに、目礼する詠介を不躾に観察している。
その向こうで、篝がそろりと後退していくのが見えた。この場にいては女性陣の好奇の視線にさらされると思ったのだろう。賢明な判断といえる。
ふと雛菊が口を開きかけたところで、彼女を呼ぶ声が背後からした。
「ああ、雛菊さん。ここにいたんですね」
そこには二十代後半の優男がいた。燕尾服を着こなし、口元には小さな笑みを浮かべている。温厚そうな表情だが、初めて見る顔だ。
疑問が顔に出ていたのだろう。雛菊が慌てて彼の横に並ぶ。
「百合子、絃乃。……紹介するね。こちら、朽葉公隆さん。わたくしの婚約者よ。お仕事は警官で、八等警部でいらっしゃるのよ」
「ご紹介に与りました、朽葉です。どうぞよろしく」
軽く頭を下げて挨拶する彼は一見、穏やかだが、キビキビとした動作は職業の賜物だろうか。隙のない動きに圧倒されていると、百合子が口を開く。
「朽葉様のお話はかねがね……とても優しい方だと伺っておりますわ」
「そう言われると、面映ゆいものですね。私も雛菊さんからお二人の話をよく聞いておりますよ。絃乃さんの弟君についても……。及ばずながら、私も彼の力になりたいと思っています」
「あ、ありがとうございます」
申し出に面食らいながらお礼を述べていると、それまで無言で成りゆきを見守っていた詠介が小声で囁く。
「すみません。お客人の中に取引先の方がいるので、挨拶に行ってきますね」
「ああ、はい。わかりました」
大人は大変だ。社交辞令をしたり、相手の自慢話に相づちを打ったり、やりたくないことも愛想笑いでごまかして生きていかなければならない。
今は女学生の身だから挨拶回りも大してないが、他人事でいられる時間も少ないだろう。
去っていった詠介の後ろ姿を見送っていると、見慣れないボーイが近くにいた。年若い少年は真面目な顔で、淡々と用件を話す。
「実は、旦那様からお嬢様のご友人である絃乃様に、ぜひお目にかけたいものがあると。恐縮ですが、ご足労願えないでしょうか?」
「……わかりました」



