百合子の家は和洋折衷の屋敷で、増改築により東側にはダンスホールも備え付けてある。会場はすでに招待客が溢れかえり、ボーイに招待状を見せて中に入った。
「多いですね」
詠介のつぶやきに同意し、パーティーの主役である百合子の姿を探す。
彼女は奥で招待客の対応に追われているようだった。彼女の横には、微笑みを絶やさない婚約者の八尋の姿もある。
(挨拶は後にしたほうがよさそうね……)
きらめくシャンデリアの下、色とりどりの華やかなドレスが目を引く。絃乃は自分の衣装を見下ろし、色味を抑えすぎたかもと後悔した。
夜会巻きの下には、星空をイメージした藍色の夜会服。後ろのスカートにはボリュームがあり、年配の淑女たちは孔雀の扇を片手に談笑している。
男性は燕尾服に身を包んでおり、詠介も例外ではない。
(ああ、まさか……詠介さんの燕尾服を見ることができるなんて……)
白い蝶ネクタイに白いベスト、黒のジャケットとズボンに白のポケットチーフ。自然と着こなしている姿もポイントが高い。
自分の連れの姿にときめいていると、陽気な声がかかる。
「よっ!」
声のほうに振り返れば、髪を後ろに撫でつけて固めた篝が片手を挙げていた。
いつものくたびれたスーツではなく、品のよいグレーの三つ揃いは、借り物の服を着てきたような印象がぬぐえない。
「どうして、篝さんが……?」
「百合子お嬢さんの父君から招待されたんだよ。ダンスは参加しないけどな」
篝は上から下まで一通り眺めると、にやりと笑う。
「なかなか似合っている。馬子にも衣装というか」
「それって、褒めてないじゃないですか」
「おかしいな。褒めているつもりだったんだけど」
昔なじみに会ったように話し込んでいると、横から詠介の声が割って入る。
「お二人は仲がいいんですね」
「……誰だ?」
「初めまして。絃乃さんのパートナーで、佐々波といいます」
握手を求められているのに気づき、篝が上着の裾で手を軽くぬぐって、その手を重ねる。
(不思議な光景だわ……攻略キャラクターと案内役の出会いを見ているなんて)
ゲームではお目にかかれないシーンだ。ある種の感動を胸に抱いていると、詠介がキラキラのエフェクトを背景に微笑んだ。
「……失礼ですが、お名前を伺っても?」
「あ、ああ。篝だ。新聞記者をやっている」
「そうなんですね」
いやいや、あなた、知っているでしょう。
攻略対象の基本情報など、ゲーム案内役の彼なら当然把握しているはずだ。初対面の篝に配慮しての挨拶だとわかるが、脳内ツッコミは止まらない。
(というか、雰囲気がいつもより刺々しい……? そりゃ、ヒロインの恋の相手候補だったけど、今はもう専用ルートだし、ゲームの障害になる可能性はほぼゼロなのに)
もしかして篝の行動で、決められたシナリオが狂う可能性を危惧しているのだろうか。
顎に手を当てて真剣に悩んでいると、おっとりとした声が現実に引き戻す。
「多いですね」
詠介のつぶやきに同意し、パーティーの主役である百合子の姿を探す。
彼女は奥で招待客の対応に追われているようだった。彼女の横には、微笑みを絶やさない婚約者の八尋の姿もある。
(挨拶は後にしたほうがよさそうね……)
きらめくシャンデリアの下、色とりどりの華やかなドレスが目を引く。絃乃は自分の衣装を見下ろし、色味を抑えすぎたかもと後悔した。
夜会巻きの下には、星空をイメージした藍色の夜会服。後ろのスカートにはボリュームがあり、年配の淑女たちは孔雀の扇を片手に談笑している。
男性は燕尾服に身を包んでおり、詠介も例外ではない。
(ああ、まさか……詠介さんの燕尾服を見ることができるなんて……)
白い蝶ネクタイに白いベスト、黒のジャケットとズボンに白のポケットチーフ。自然と着こなしている姿もポイントが高い。
自分の連れの姿にときめいていると、陽気な声がかかる。
「よっ!」
声のほうに振り返れば、髪を後ろに撫でつけて固めた篝が片手を挙げていた。
いつものくたびれたスーツではなく、品のよいグレーの三つ揃いは、借り物の服を着てきたような印象がぬぐえない。
「どうして、篝さんが……?」
「百合子お嬢さんの父君から招待されたんだよ。ダンスは参加しないけどな」
篝は上から下まで一通り眺めると、にやりと笑う。
「なかなか似合っている。馬子にも衣装というか」
「それって、褒めてないじゃないですか」
「おかしいな。褒めているつもりだったんだけど」
昔なじみに会ったように話し込んでいると、横から詠介の声が割って入る。
「お二人は仲がいいんですね」
「……誰だ?」
「初めまして。絃乃さんのパートナーで、佐々波といいます」
握手を求められているのに気づき、篝が上着の裾で手を軽くぬぐって、その手を重ねる。
(不思議な光景だわ……攻略キャラクターと案内役の出会いを見ているなんて)
ゲームではお目にかかれないシーンだ。ある種の感動を胸に抱いていると、詠介がキラキラのエフェクトを背景に微笑んだ。
「……失礼ですが、お名前を伺っても?」
「あ、ああ。篝だ。新聞記者をやっている」
「そうなんですね」
いやいや、あなた、知っているでしょう。
攻略対象の基本情報など、ゲーム案内役の彼なら当然把握しているはずだ。初対面の篝に配慮しての挨拶だとわかるが、脳内ツッコミは止まらない。
(というか、雰囲気がいつもより刺々しい……? そりゃ、ヒロインの恋の相手候補だったけど、今はもう専用ルートだし、ゲームの障害になる可能性はほぼゼロなのに)
もしかして篝の行動で、決められたシナリオが狂う可能性を危惧しているのだろうか。
顎に手を当てて真剣に悩んでいると、おっとりとした声が現実に引き戻す。



