お店に押しかけるのは外聞が悪いかなと悩んだ末、いつもの河原に足を向ける。左右を見渡しながら歩いていると、土手で帳面に何かを書き込んでいる詠介の姿を見つけた。
ほっと息をつき、彼のもとへ駆け寄る。
「よかった。詠介さん、ここにいたんですね」
「絃乃さん。僕に何か用事でしたか?」
こくこくと頷き返すと、彼は居住まいを正し、絃乃に向き直る。
あまりの緊張に喉が渇く。けれど、このチャンスを逃すわけにはいかない。次にいつ会えるのか、わからないのだから。
「あ……あのっ、私のパートナーになっていただけないでしょうか!」
「えっと、どういうことでしょう?」
目を丸くして戸惑う顔を見て、前後の説明を省いてしまったことに遅まきながら気づく。
浅くなっていた呼吸を整え、決意が鈍らないうちに一息で理由を述べる。
「今度、誕生パーティーでダンスがあるらしくて、パートナー同伴が条件なんです」
「……なるほど。ですが、どうして僕に?」
当然の疑問に、うっと答えに窮する。目の前にあるのは揶揄ではなく、純粋な疑問という眼差しで、余計に言い出しづらくなる。
(女は度胸。ええい、ままよ!)
百合子からの励ましの言葉を思い出し、絃乃は両手をぎゅっと握りしめて叫ぶように言う。
「詠介さんがいいんです! というか、詠介さんじゃなきゃ駄目なんです」
言った後で、しまった、と思った。
必死すぎる返答に、詠介も言葉が出ないように沈黙が訪れる。
自分の失態に頭を抱えたくなったが、逃げ出すわけにもいかず、羞恥心を抑えて彼の言葉を待つ。
永遠のように思えた待ち時間を経て、詠介はそっと口を開いた。
「……お気持ちはわかりました。そこまで言われたら断れません。僕でよろしければ、喜んでお引き受けします」
「本当ですか?」
食い気味で言うと、詠介は体をのけぞらせながらも頷く。
「はい。それで、どなたの誕生パーティーなのですか?」
「百合子です。来月の土曜日に自宅でパーティーを行うそうです」
「そういえば、そんな時期でしたね……」
「え?」
聞き返すと、詠介はゆっくりと首を横に振った。
「いえ、なんでもありません。それより、ダンスということは絃乃さんはドレスを着るんですか?」
「え、ええと……そうなります」
「それは楽しみですね」
社交辞令だろうが、微笑みかけられて頬が熱くなる。胸の鼓動も一層大きくなった。
(ああ、勢いで誘ってしまったわ……)
恥ずかしさで両手を手で押さえる。涼しくなってきたのに、何やら暑く感じる。
詠介をちらりと見ると、彼は微笑を返す。大人の余裕を感じさせる様子に、無性に敗北感が募った。
ほっと息をつき、彼のもとへ駆け寄る。
「よかった。詠介さん、ここにいたんですね」
「絃乃さん。僕に何か用事でしたか?」
こくこくと頷き返すと、彼は居住まいを正し、絃乃に向き直る。
あまりの緊張に喉が渇く。けれど、このチャンスを逃すわけにはいかない。次にいつ会えるのか、わからないのだから。
「あ……あのっ、私のパートナーになっていただけないでしょうか!」
「えっと、どういうことでしょう?」
目を丸くして戸惑う顔を見て、前後の説明を省いてしまったことに遅まきながら気づく。
浅くなっていた呼吸を整え、決意が鈍らないうちに一息で理由を述べる。
「今度、誕生パーティーでダンスがあるらしくて、パートナー同伴が条件なんです」
「……なるほど。ですが、どうして僕に?」
当然の疑問に、うっと答えに窮する。目の前にあるのは揶揄ではなく、純粋な疑問という眼差しで、余計に言い出しづらくなる。
(女は度胸。ええい、ままよ!)
百合子からの励ましの言葉を思い出し、絃乃は両手をぎゅっと握りしめて叫ぶように言う。
「詠介さんがいいんです! というか、詠介さんじゃなきゃ駄目なんです」
言った後で、しまった、と思った。
必死すぎる返答に、詠介も言葉が出ないように沈黙が訪れる。
自分の失態に頭を抱えたくなったが、逃げ出すわけにもいかず、羞恥心を抑えて彼の言葉を待つ。
永遠のように思えた待ち時間を経て、詠介はそっと口を開いた。
「……お気持ちはわかりました。そこまで言われたら断れません。僕でよろしければ、喜んでお引き受けします」
「本当ですか?」
食い気味で言うと、詠介は体をのけぞらせながらも頷く。
「はい。それで、どなたの誕生パーティーなのですか?」
「百合子です。来月の土曜日に自宅でパーティーを行うそうです」
「そういえば、そんな時期でしたね……」
「え?」
聞き返すと、詠介はゆっくりと首を横に振った。
「いえ、なんでもありません。それより、ダンスということは絃乃さんはドレスを着るんですか?」
「え、ええと……そうなります」
「それは楽しみですね」
社交辞令だろうが、微笑みかけられて頬が熱くなる。胸の鼓動も一層大きくなった。
(ああ、勢いで誘ってしまったわ……)
恥ずかしさで両手を手で押さえる。涼しくなってきたのに、何やら暑く感じる。
詠介をちらりと見ると、彼は微笑を返す。大人の余裕を感じさせる様子に、無性に敗北感が募った。



