乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 冷たい風に吹かれながら、校庭の隅にある定位置に座っていた絃乃は、食後の会話に相づちを打っていた。お弁当箱はすでに空だ。
 とりとめのない話を三人で話す。イギリスから来た音楽教師の儚げな美貌についての妄想、憧れの上級生がとうとう下級生とエスの契りを交わしたらしい――仕入れた噂話を聞きながら、今ごろ詠介は何をしているだろうと思いを馳せる。
 いまだ彼との関係は恋人未満。果たして友人と呼んでいいのかも微妙な線だ。

(関係性を変えたいなら、そろそろ次の行動に出ないといけないわよね……でも、具体的に何をすればいいのかしら)

 悶々と考えていると、百合子がそうそう、と声を弾ませた。

「来月に誕生パーティーを開くことになったの。二人とも来てくれる?」
「もちろんよ」
「行くに決まっているじゃない」

 当たり前だとばかりに頷くと、百合子は嬉しそうに言葉を付け足した。

「あ、ダンスの時間もあるから、パートナーを連れてきてね」
「それって……パートナーとの参加が条件ってこと?」
「平たく言うと、そういうことになるわね」

 予想外の条件に、絃乃は沈黙する。
 しばし熟慮するが、彼女の希望を叶えられそうにない。

「雛菊は婚約者がいるからいいけど、私にそういった知り合いはいないわよ……?」
「何を言っているの。意中の方を誘えばいいでしょう」
「い、意中って……そんなの無理よ。お仕事だってあるでしょうし、だいたいパートナーに誘えるような間柄じゃないもの」

 ふるふると首を横に振ると、いつもは奥手の百合子がずずいっと顔を近づけてくる。何ごとかと身構えている間に両手を取られ、真剣な眼差しに射すくめられる。

「絃乃さん。恋は自分でつかみ取るものよ。行動あるのみよ!」

 まさかのヒロインからの叱咤激励に、絃乃は口を噤む。

(……励まされてしまった……)

 いつもと逆の展開だ。自分を勇気づけてくれていると頭ではわかるが、そう簡単に心は決められなくて。二人から視線を集めながらも、答えに躊躇してしまう。

(でも、もし断られたら……きっと凹んでしまうわ)

 快諾してくれるかはわからない。もしかしたら困ったような顔で、やんわりとお断りされるかもしれない。その状況を頭で思い浮かべてみたが、思ったより心のダメージが強かった。
 恋する乙女に悩みは尽きないのだ。