乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

「ここに入るのは何年ぶりかしら……」

 表座敷を抜けて廊下を進んだ西側が、家族に割り当てられた居住空間だ。絃乃の部屋の二つ隣の和室が葵の部屋だった。
 主人のいない部屋は、定期的に掃除がされているようで、埃っぽい様子はない。文机の上には弟が読んでいた古い書物が置かれ、行方不明になった当時のまま保管されている。

(この部屋は、まだ気持ちの整理がついていないことの表れなのでしょうね)

 心のどこかで、いつか帰ってくると信じていたいのだ。

(葵は……生きていた。でも、まだここには帰ってこられない)

 あの晩は、それぞれ自分の部屋で就寝していた。もし隣で寝ていれば、異常事態に早く気づけただろうか。たった一人の弟に、つらい思いをさせることもなかっただろうか。
 もしも、と願ってしまうのは、何もできなかった自分が許せないかもしれない。再会した弟は雰囲気がだいぶ違っていた。だから気づくのが遅れた。姉として情けなく思う。

(謎解きルートを攻略しなければ、いずれ、私もここにはいられなくなる。そうしたら、両親はまた子どもを失うことになる)

 家族を失ったと知ったときの悲しみは、計り知れない。今思い出しても、苦い気持ちが心にあふれてくる。あんな思いは一度で充分だ。
 できることなら、今すぐ葵に詰め寄って問いただしたい。
 聞きたいことはたくさんある。夜中に消えたのは自分の意志だったのか、それとも誰かにさらわれたからなのか。せめて狙われている理由がわかれば、対策だって一緒に考えられたのに。

(答えてよ。葵――)

 しんと静まった部屋に返る声はなく、襖も閉まったままだ。何年も部屋の主人を失ったままの和室は時が止まったみたいに沈黙していた。