乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 本当に好きなのだということが伝わってきて、不意に切なさがこみ上げてくる。

(百合子とは結ばれないルートだから、彼の相手役は不在なのよね)

 複雑な気持ちを押し隠し、絃乃は明るい声で話題を変える。

「どこが好きなんです? 百合子のこと」
「…………なんてことを聞くんだ?」

 口に手を当てて驚き、信じられないといった反応が返ってきて、聞いてほしくないことなんだと当たりをつける。
 そうだとわかれば、好奇心がくすぐられても仕方のないことで。

「いいじゃないですか、減るものでもないし。第一、その恋はもう実らないのは確定しているんですから」
「……お嬢さんも、だいぶ外行きの顔がはがれてきたな」
「篝さんには素でもいいかなって。何というか、親戚のおじさまみたいな……」
「俺はおじさんじゃねぇ」

 即座に否定が入ったが、軽く聞き流すことにした。

「それで? どこに惚れちゃったんですか? やっぱり顔ですか? 容姿ですか?」
「お前、楽しんでいるだろ……」
「否定はしません」
「華族の令嬢って聞いていたんだがな……。もう一人の友人をつかまえるべきだったか?」
「今さら後悔しても遅いですよ。それに、雛菊には婚約者がいます」
「人選を誤ったな……」

 本気で後悔しているらしく、うなだれてしまった。
 しかし、それとこれとは話が別だ。ゲームでは聞けなかったことが、今なら聞ける。こんな機会を逃す手はない。
 絃乃は追及の手をゆるめず、有無を言わさない笑顔で告げる。

「誰にも言いませんから、そろそろ教えてくださいよ」

 言葉に詰まった様子の篝は大げさほどに息を吐き出し、頭をわしゃわしゃと掻く。

「……全部だよ、全部。惚れたやつのことは、全部ひっくるめて好きになって当然だろう」
「ははあ、そうきましたか」
「なんだよ。あんた、性格悪いぞ……?」
「そうですか。それはたぶん……」

 前世の記憶があるからじゃないですか?
 口の中で答えて、絃乃は自分の失態を悟った。普段は絃乃として振る舞っていたつもりだが、今は完全に前世モードだった。
 三十路ともなると、教育係に指名されることも少なくない。教育係をしていた延長で、年下男子の恋愛相談を受けたこともある。つい前世のくせで、ほいほい聞き出してしまったが、花も恥じらう乙女である自覚が足りなかったかもしれない。

(いけない、いけない。今は香凜じゃなくて絃乃だった。気をつけなくちゃ)

 先ほどから篝の視線が痛い。咳払いでごまかすと、篝が言葉の先を促す。

「たぶん、なんだよ?」
「……篝さんと打ち解けてきた証しってことですよ」
「それはそれは、光栄なことだな……」

 まったく心がこもっていない声で、遠い目をしている。次からは対応に注意しよう。今は十代のうら若き乙女。そう自分に言い聞かせ、残りの大福を胃の中に収めた。