乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

「……では、お言葉に甘えますね」

 下級生が座っていた席に腰を下ろす。持っていた風呂敷は隣の席に置いた。

「何がいい?」
「そうですね、私も大福がいいです」
「わかった。遠慮なく食べてくれ」

 あまり待たずに注文したものが運ばれてきて、目線で食べるように促される。
 もちもちとした食感の後、くどくない甘みが口の中に広がる。上品な餡に舌鼓を打ち、口の端についた片栗粉を指先で簡単にぬぐう。
 すると、取材の資料をまとめているのか、小さな帳面に書き込んでいた篝がふと顔を上げた。話をする頃合いを待っていたのかもしれない。

「百合子お嬢さんは、その後どうだ? 婚約者殿と仲良くやっているか」

 てっきり怪盗鬼火の話題が振られると思っていただけに、拍子抜けする。と同時に、なんだか不憫な気持ちを抱いてしまう。

「……やっぱり、まだ彼女のことが好きなんですか?」
「仮にそうだとしても、俺は見守る派だ。気になっていた女性の幸せを願って何が悪い」
「あ、開き直りましたね」

 半眼して見やるが、篝はこたえた様子はなく、声のトーンを低くして問う。

「雪之丞は音沙汰なしか? しつこくつきまとっているって言っていただろ」
「そうですね。百合子が婚約して諦めたんじゃないですか。婚約後は名前も聞きませんし」
「……で、藤永ってやつは信頼の置ける男なのか?」

 緊張した面持ちで答えを待っている篝に、絃乃はため息をつく。
 要するに百合子についての話を聞ける人物だから、ごちそうしてくれたのだろう。

「聞きたい質問はそれですか。興信所に知り合いがいるって言っていませんでした?」
「興信所に行くまでもない。あいつは嘘みたいに紳士な男だ。疑ってかかっても何も出てこねぇよ」
「一度敗北したような言い方ですね」
「だが、そういうやつほど腹に一物抱えているもんだろ? 品行方正の裏側が知りてぇんだよ、俺は」

 確かにそれは一理ある。
 前回会ったときのことを思い返し、何か気になる部分はなかったかと考える。しかし、ゲームの知識と合わせてみても、彼の心配は杞憂だと思えた。

「友人の立場から言わせてもらいますけど……彼は、うっかり好きになる女性が数多くいると思います。そのぐらい魅力的です。欠点らしい欠点は見当たりません」
「……そうだろうとも」
「今度はすねちゃいましたか。一人ぐらいはいるんじゃないですか? 嘘みたいな紳士が」

 実は筆無精という短所があるのだが、これは秘密にしておいていいだろう。

(それ以外は完璧だものね。篝さんが嫉妬するのもわかるけれど……)

 八尋は、昔の恋人とのやりきれない思いを乗りこえた後、一途に愛を囁く。きれいな思い出の中ではなく、今を生きているヒロインと愛を育むのだ。
 それこそ漫画のような展開だが、現に乙女ゲームの攻略対象なのだから、当然といえば当然の流れだ。それに、裏で画策する邪な思いを抱くような人物設定ではない。
 そんな裏事情を知らない篝は、腕を組んで背もたれにもたれかかる。

「……俺はな、百合子お嬢さんには幸せになってもらいたいんだ。結婚後に不幸になるような結末は回避してほしいんだ」