「何度言われても、答えは同じです」
毅然とした態度で返答する百合子に、雪之丞は片眉をぴくりと震わせた。
睫毛が長く、神がかった美しさの顔は、まるで絵画に出てくる天使のようでもある。
(ああ、苛立つ姿さえも美しいなんて、スチルとまったく同じだわ)
乙女ゲームを思い出し、絃乃は胸が詰まる。
雪之丞美鶴。伯爵家の長男で、次期当主として複数の事業に投資している資産家だ。同じ華族だが、公家出身の白椿家とは財力が違う。
(ゲームでは部下に裏切られて、冤罪で投獄されて。それをヒロインが無実の証拠をかき集めて救う、というストーリーだったけれど)
百合子は冷たい目で雪之丞を見据えており、残念ながら、二人の間に愛が芽生える気配はない。
つれない態度に業を煮やしたのか、雪之丞は百合子の腕を取る。
「さあ、参りましょう。本日のディナーはすでに予約してあります。味もご満足いただけると思いますよ」
「——その手を離してもらいましょうか」
雪之丞から百合子の腕を解放したのは、颯爽と現れた短髪の将校だった。濃い緑の軍帽と軍服、首元まで覆う詰め襟、そしてピカピカに磨かれた黒革靴。
けれど、威圧感のある軍人とは違い、彼は優しい面差しをしていた。低く、色気のある声音は記憶と同じもので。
「彼女が困っています。紳士ならば、引き際は弁えるべきでは?」
「ふ、藤永様……!」
驚く百合子の言葉に、ゲームの説明書にあった彼のプロフィールを思い出す。
藤永八尋。軍人一家の次男で、帝国陸軍の軍医少尉。いわゆる、若きエリートの将校だ。
(攻略対象が同時に現れるなんて。ゲームでも萌えたけれど、これは見どころのシーンだわ……!)
番狂わせの登場に、雪之丞がひねり上げられた腕をさすりながら目で威圧する。
一方の百合子は感嘆したように声をもらす。
「どうして、こちらに?」
「あなたにつきまとっている男がいると聞いたものですから。女性に無理強いをするのは紳士のすべき行いではありません。百合子さんが困っているなら、お助けしたいと思い、馳せ参じた次第です」
すらすらと答える八尋に、百合子は戸惑うように見つめた。
「ですが、私はまだ、あなたにお返事をしていないのに……」
毅然とした態度で返答する百合子に、雪之丞は片眉をぴくりと震わせた。
睫毛が長く、神がかった美しさの顔は、まるで絵画に出てくる天使のようでもある。
(ああ、苛立つ姿さえも美しいなんて、スチルとまったく同じだわ)
乙女ゲームを思い出し、絃乃は胸が詰まる。
雪之丞美鶴。伯爵家の長男で、次期当主として複数の事業に投資している資産家だ。同じ華族だが、公家出身の白椿家とは財力が違う。
(ゲームでは部下に裏切られて、冤罪で投獄されて。それをヒロインが無実の証拠をかき集めて救う、というストーリーだったけれど)
百合子は冷たい目で雪之丞を見据えており、残念ながら、二人の間に愛が芽生える気配はない。
つれない態度に業を煮やしたのか、雪之丞は百合子の腕を取る。
「さあ、参りましょう。本日のディナーはすでに予約してあります。味もご満足いただけると思いますよ」
「——その手を離してもらいましょうか」
雪之丞から百合子の腕を解放したのは、颯爽と現れた短髪の将校だった。濃い緑の軍帽と軍服、首元まで覆う詰め襟、そしてピカピカに磨かれた黒革靴。
けれど、威圧感のある軍人とは違い、彼は優しい面差しをしていた。低く、色気のある声音は記憶と同じもので。
「彼女が困っています。紳士ならば、引き際は弁えるべきでは?」
「ふ、藤永様……!」
驚く百合子の言葉に、ゲームの説明書にあった彼のプロフィールを思い出す。
藤永八尋。軍人一家の次男で、帝国陸軍の軍医少尉。いわゆる、若きエリートの将校だ。
(攻略対象が同時に現れるなんて。ゲームでも萌えたけれど、これは見どころのシーンだわ……!)
番狂わせの登場に、雪之丞がひねり上げられた腕をさすりながら目で威圧する。
一方の百合子は感嘆したように声をもらす。
「どうして、こちらに?」
「あなたにつきまとっている男がいると聞いたものですから。女性に無理強いをするのは紳士のすべき行いではありません。百合子さんが困っているなら、お助けしたいと思い、馳せ参じた次第です」
すらすらと答える八尋に、百合子は戸惑うように見つめた。
「ですが、私はまだ、あなたにお返事をしていないのに……」



