乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 放課後、そわそわとした気分のまま、出町柳のそばにある甘味処に向かう。
 お使い帰りの使用人や他校の女学生の姿も多く、絃乃たちは店先の椅子に並んで腰かける。黒板で書かれたメニュー表を見ながら雛菊がつぶやく。

「新作っていうのはこれかしら。夏季限定の蜜豆(みつまめ)。季節のフルーツがついてくるみたいね」

 他の客を一瞥し、百合子がうーんと唸る。

「羊羹も美味しそうね」
「ここの粒あんも美味しいのよねえ」

 胃袋とお財布に限度がなければ、どれも食べたいというのが本音だ。

「……どれにする?」

 絃乃が二人に目配せすると、あらかじめ示し合わせていたように同時に頷いた。

「やっぱり夏季限定は外せないでしょ」
「そうよ。せっかくだから、夏の気分を味わいたいもの」

 絃乃は注文を済ませ、両手を合わせて淑やかに座る百合子に肩を寄せる。

「聞きたいことがあるのだけど、いいかしら?」
「……いいわよ。なんでも聞いてちょうだい」

 おもしろそうな気配を嗅ぎつけたのか、雛菊も体を寄せてくる。二人の視線を浴び、絃乃は気詰まりしながらも口を開く。

「今、誰か気になる人はいないの?」
「なあに、藪から棒に……」
「もう結婚適齢期でしょ、私たち。雛菊は婚約者がいるのだし、百合子にもいい縁があるんじゃないかしらと思って」

 実際のところ、ゲームの攻略具合はいかほどか。
 順当に進んでいれば、専用ルートに入っていてもおかしくない。もしくは、まだ攻略対象を絞り切れていないか。いずれにしろ、三人の男性にアプローチされているはずだ。
 百合子は焦らすような間を置いて、諦めたようにそっと息をつく。

「実は……お見合いをしたの。だけど、ちょっと波長が合わないというか、困っていて」
「困っているって、何かされたの?」
「時間を見つけては、私に会いに来てくださるのだけど。いつも急だし、なんだか会話もかみ合っていない気がして、思いきってお断りすることにしたの」

 要するにタイプではなかったのだろう。
 絃乃が相づちを打っていると、百合子は言葉を続けた。

「だけど、彼は諦めてくれなくて。断られると思っていなかったのでしょうね……。それからも何かにつけて家を訪れるようになってしまったの。途方に暮れていたら、ちょうどお父様の部下の方が助けてくださって……」
「まあ、恋の気配ね」

 雛菊の茶々に、違うわ、と百合子は即座に否定した。