「っ……」


声を出したいのに出せない、そんなあたしの様子に冬哉は気付いたのかもしれない。


「……あ、そういえば」


何かを思い出した声に、あたしはパッと顔を上げる。

すると冬哉は机の横にかけたリュックから、何かを取り出そうとしていた。

そして──。


「これ返すの忘れてた。ありがとな」


そう言って差し出されたのは、今日学校で冬哉に貸した教科書。

でも、リュックから取り出す瞬間に見えてしまった。


全く同じ教科書がもうひとつ入っていたこと。


『橘くんがわざわざうちの教室まで来たのって、心配して様子を見に来てくれたんじゃないかな』


思い出すのは、はるかの言葉。

半信半疑だったのが、確信に変わる。



「……夏海?」


教科書を受け取ることもせず、再び俯くあたしを冬哉が不思議そうに呼ぶ。

だけど、不思議なのはこっちの方。


「なんで……そんなに優しくしてくれるの?」

「え?」


涙声で震えたあたしの声は、はっきりと届かなかったみたいで、冬哉が聞き返す。