冷徹王子様は、あたしだけに甘い恋をする。


***


「4メートル90!」


体育の授業中。

先生が読み上げた走り幅跳びの記録に、『さっきよりも7センチも伸びた!』と、小さくガッツポーズを決めた……瞬間。


「橘くん、頑張ってー!!」


「せーの」と声を合わせて言ったであろう、女子数人の声。

つられてグラウンドの反対側を見れば、50メートル走をする男子の姿があった。


そして先頭を走るのは、「橘くん」と呼ばれていた通り、冬哉の姿。


タイムこそ聞こえてこないものの、ぶっちぎりでゴールした冬哉に、女子からは「きゃー!!」と、それこそ絵に描いたような黄色い声が上がる。




「すごいねぇー」


砂場から女子達の集まりに戻ると、声をかけてきたのは友達のはるか。


ふんわりとしたボブに、くりくりとした大きな目。身長は150センチと小さく、体型は華奢な可愛らしい小動物系女子。

はるかとは高校に入学してすぐに仲良くなって、運良く2年生でも同じクラスになれた。


そんなはるかが「すごい」と言ったのは、残念ながらあたしの走り幅跳びの記録ではない。