***
「4メートル90!」
体育の授業中。
先生が読み上げた走り幅跳びの記録に、『さっきよりも7センチも伸びた!』と、小さくガッツポーズを決めた……瞬間。
「橘くん、頑張ってー!!」
「せーの」と声を合わせて言ったであろう、女子数人の声。
つられてグラウンドの反対側を見れば、50メートル走をする男子の姿があった。
そして先頭を走るのは、「橘くん」と呼ばれていた通り、冬哉の姿。
タイムこそ聞こえてこないものの、ぶっちぎりでゴールした冬哉に、女子からは「きゃー!!」と、それこそ絵に描いたような黄色い声が上がる。
「すごいねぇー」
砂場から女子達の集まりに戻ると、声をかけてきたのは友達のはるか。
ふんわりとしたボブに、くりくりとした大きな目。身長は150センチと小さく、体型は華奢な可愛らしい小動物系女子。
はるかとは高校に入学してすぐに仲良くなって、運良く2年生でも同じクラスになれた。
そんなはるかが「すごい」と言ったのは、残念ながらあたしの走り幅跳びの記録ではない。



