机の中から教科書を見つけて、あたしは冬哉に渡しに行った。


「はい、これ。最近忘れ物しすぎなんじゃない?」

「うっせー」


あくまでいつも通り……を意識して、小言のひとつでも言ってみる。

だって冬哉は今朝から本当にいつも通り。

何もなかったように朝食を摂って、一緒に家を出てきた。

きっと、相手の気持ちを探るようにドキドキしているのはあたしだけ……。


「ほら」

「なに?」


教科書を受け取った反対側の手で、何かを差し出され、反射的に受け取る。

見ると、それはイチゴ味のスティックチョコレートだった。

あたしが好きなやつ。


「あ、ありがと」

「ん、何か渡さないとお前うっさいから」

「言い方……!」


あたしがむうっとムクれると、冬哉はフッと吹き出すように笑って、


「サンキューな」


あたしの貸した教科書を片手に、踵を返した。