「どうしたの?」


何で急に教室に……?

いつもなら何でもないことなのに、あたしは少し動揺しながら冬哉の前に立った。


「あぁ、英語の教科書借りようと思って」

「……」


英語の……教科書……?

思っていたのと違う冬哉の発言に、ポカンとすると、


「夏海?」

「あ、うん、ちょっと待ってて」


冬哉に不思議そうに声をかけられたあたしは、ハッとして慌てて教室に戻った。


……あたしは一体何を期待しているんだろう。

ドキドキと鼓動がうるさい自分が嫌になる。


「橘くん、何だって?」

「英語の教科書借りたいんだって」


ひらひらと冬哉に手を振りながら聞くはるかに、あたしは教科書を机の中から探しながら苦笑した。


教科書なんて、別に他の人にも借りられるのに。

はるかはもちろん、そこら辺の女子みんな冬哉の方を見ていて、声をかければ喜んで貸してくれるはず。

それなのに……


あたしのところに来てくれるのを、心の奥では嬉しく思っている。