冬哉が今、どんな顔をしているのか見られない。


そのまま数秒間の沈黙が流れた後、


「……わかった」


ひと言そう呟くと、掴んだ腕を離して、冬哉は覆い被さっていた身体を起こした。


「……」


自分が決めて告げたはずなのに、泣きたくなるくらいの喪失感。

向けられた背中を、本当は今すぐ抱きしめたい。

でも、それは叶わない。
叶えちゃいけない。


「っ、ごめんねっ……」


あたしは自分の感情を必死に押し殺して、逃げるように冬哉の部屋を飛び出した。



──もういっそ、全部夢だったらいいのに。


さっきの冬哉の言葉も、はるかに協力すると言ったことも、自分の中の気持ちも……。

全部夢だったらいいのに、冬哉に掴まれた腕の感触は強く残っていて、顔はまだ熱くて、ズキズキと胸の奥が痛い。


冬哉の部屋の向かいの部屋に戻って、バタンと後ろ手でドアを閉める。

すると、入ったばかりの部屋の空気は冷たくて、その瞬間堪えていた涙がこぼれ落ちた。