──コンコン。
「……返事する前に開けんなよ」
「えへへ」
千尋ちゃんの向かいの部屋。
ノックしてそのままドアを開けると、ベッドに腰掛け本を読んでいた冬哉が、呆れた表情で顔を上げた。
「あ、えっちな本でも読んでた?」
「ばーか」
冗談を言いながらあたしが部屋に入ると、冬哉は立ち上がった。
そして読んでいた分厚い本を置き、机の上の本棚の中から一冊何かを取り出した。
バサッとそれを、投げ捨てるようにローテーブルに置く。
見るとそれは『数学』の教科書。
「え……?」
まだ何も言っていないのに。
「夏海のことだから、課題教えてほしいんだろ」
……さすが。
ため息混じりに言いながら、床にあぐらをかく冬哉に、あたしは「うん!」と大きく頷いて、ローテーブルを挟んで向かいに座った。



