きっと冬哉が普段からこんな顔をしていれば、『冷徹王子』なんて呼ばれることはない。
あたしだって、もっと愛想良くすればいいのにって、ついこの間までそう思っていた……はずなのに。
今は、その笑顔を他の誰にも見せたくないと思ってしまっている。
ずっとあたしだけが、その笑顔をひとりじめしたいって──。
「……ばか」
ポツッと小さく呟いて、あたしは先にトンネル水槽の方へと歩き出した冬哉を追いかける。
そして今度はあたしから……冬哉の手をぎゅっと握った。
まさか自分が冬哉の『彼女』になるなんて、思ってもみなかった。
一週間前のあたしに伝えたら、とても信じてもらえないと思う。
だけど、気付いていないだけで、あたしはきっとずっと恋をしていた。
冬哉の意地悪な笑顔に……ずっと。