「はい。もちろんタダじゃないよね?」
机の中から数学の教科書を持ってきたあたしは、冬哉にそれを差し出してニッコリと微笑む。すると、
「あー……はいはい。ほら」
冬哉は分かってますとばかりに返事しながら、手にしていたビニール袋から何かを取り出した。
「あっ、いちごオレ!」
「これで文句ないだろ」
ちょうど欲していた飲み物にコクコクと頷くと、冬哉はあたしの頭の上にポンッと手のひらを乗せて、「じゃあな」と踵を返した。
「ばいばーい!」
冬哉の後ろ姿にブンブンと大きく手を振って、あたしも教室へと戻る。
思いがけずジュース代が浮いてしまった。
それに、さすが冬哉。あたしの好みを良く分かっている。
「わらしべ長者してきた〜!」
教室で待ってくれていたはるかに、「ごめんね」と謝ってからいちごオレを片手に報告すると、
「なっちゃんいいなぁ……」
ポツンと呟くみたいに、はるかが言った。



