トンネル水槽を抜けて冬哉が足を止めたのは、小さな水槽に1種類ずつ海の生き物が展示されているエリア。

薄暗く、あまり人気がないのか、他のエリアに比べて人通りは少ない。


「ほら」と差し出されたハンカチに、あたしのために場所を移してくれたことに気が付いた。

そして「さっきの続きだけど」と、冬哉が口を開く。


「小3の時、すっげーキレたの覚えてない?」

「え?」

「夏海とここで一緒に買ったキーホルダーを、クラスの女子に羨ましがられて。頼まれたから買って渡したら、すっげー怒ったの」


冬哉に言われて、必死に記憶を辿る。

言われてみれば、何となく覚えがある……ような気もするけれど、はっきりと思い出せない。


「は?ガチで覚えてねーの?」

「ご、ごめん……」

「マジかよ……」


ガックリと肩を落とし、クシャクシャと頭を掻く冬哉。

諦めたように「まぁいいや」と短くと、


「どんなに謝っても許してくんねーし、ひと言も喋ってくれなくなって。……そん時に好きだって気付いたんだよ」


少し赤くなりながら言う冬哉に、あたしは目をパチパチさせる。