冷徹王子様は、あたしだけに甘い恋をする。



「……」


もちろん楽しくないわけじゃない。

だけど──。


あたしが何も言えずに黙り込んでいると、冬哉はフイッと背を向けて歩き出した。


「あ……」


どんどん遠ざかっていく背中。

はるかのことはあたしの勘違いだったけど、いつか来るかもしれない『その時』のために、こうして離れた方が良いのかもしれない。

恋人として冬哉の隣に立つのは、人の目ばかり気にして辛いばかりかもしれない。


そんな風にも思うけど──。


「あれ?あの人ひとりになったよ、行ってみる?」


冬哉に向けられた女の子の声が聞こえた瞬間。


「──待って!」


あたしは駆け出して、冬哉の手をギュッと掴んで引き留めた。


「違う、楽しくないわけじゃない。冬哉とふたりで遊びに来れて、すごく嬉しい。でもっ……」


冬哉の顔は見られない。

あたしは掴んだ大きな手を見ながら、息を吐く。


「さっき冬哉、あたしのこと彼女って言ってくれたけど、自信ない。女の子として冬哉の隣に立つ自信ないよ」