冷徹王子様は、あたしだけに甘い恋をする。



お手洗いから出ていくと、探す間もなく冬哉の姿を見つけた。

……にも関わらず、あたしは駆け寄ることが出来ず、ピタッと足を止める。

それは……。


「冬哉くんじゃん!」

「えー、なに? 誰と一緒に来てるの?」


冬哉を囲むように、目の前に立つ女の子達。

薄ら見覚えのある彼女達は、同じ学校の、たぶん先輩方。


いつもなら何も気にせず出ていくところ……なのに、どういうわけか今日は足が固まって動けない。

冬哉はというと、明らかにめんどくさそうな顔をして、眉間にシワを寄せている。

それでも、歳上という立場のせいなのか、先輩達は特に動じることなく、冬哉に絡んでいて──。


「……あ」


立ち止まっていたあたしと目が合って、口を開いたのは冬哉。そして、


「どいて」


先輩達の間を割るようにして、冬哉はこっちへと向かって真っ直ぐ歩いてくる。


「あれって確か山下さんって子だよね?」

「あ、幼なじみの?」


あたしの姿を見るなり、そうヒソヒソと話す先輩達。


“幼なじみ”


何も間違ってはいないのに、何故かその言葉が突き刺さるようで、あたしは胸の奥の苦しさに俯いた……瞬間だった。