少し急いでイルカショーが行われるステージプールに向かうと、観客席はすでに人で埋まっていた。
「座って観るのは難しそうだね」
と、立ち見が出来る客席後方へ向かおうとしていると、
「あのっ、良かったらここどうぞ!」
ベンチの端に座っていた中学生くらいの女の子が、友達たちとカバンを避けて席を空けてくれた。
「ありがとう」
微笑んで返事したのはあたしじゃなく……冬哉。
すると女の子達は冬哉に向かって目をキラキラと輝かせていて、何が目的なのかは一目瞭然。
そうだった……。
自分のことでいっぱいいっぱいだったけど、冬哉はとてつもなくモテる。
何だったらパンケーキ屋さんでも注目を浴びていたし、電車内でもチラチラと冬哉を見る視線があった。
しかも今は、相手が明らかに年下なせいか、いつもの冷徹モードじゃない。
普通に微笑めば、芸能人顔負けの王子様。
冬哉の一歩後ろで複雑な思いを巡らせていると、
「座らせてもらえば?」
腕を引いて冬哉はあたしを前に出した。



