冷徹王子様は、あたしだけに甘い恋をする。




「さっきから何ニヤニヤしてんだよ」

「へっ?」


電車を降りてから少し歩いていると、少し不機嫌そうな顔をした冬哉に指摘された。


「ニヤニヤとかしてな──」

「してる」


言い切る前に冬哉に挟まれ、口をつぐむ。

……まあ正直言うとニヤニヤしてたけど。


「だって、冬哉も可愛いところがあるんだなと思って……」

「あ?」


思いっきり睨まれるけど、あたしには全然効かない。むしろそれも照れ隠しって分かってるから、尚のこと可愛い。

対抗するように笑顔を向け続けると、冬哉は諦めたようにため息をついて、再び歩き出した。


照れた冬哉のこと、可愛いと思ったし……嬉しかった。

ドキドキしたり、緊張したりしているのはあたしだけなんじゃないかと思っていたから。


そのまま少し歩いていると、何だか見覚えのある景色。

そして見えてきた看板に、記憶の断片が繋がった。


「これから行く場所って、もしかして桜海水族館!?」


あたしの問いに冬哉は特に返事しなかったけど、もうそれしかなくて、「懐かしい!」と声を上げた。