そのとき、ティッシュペーパーにくるまれて隠されているようにみえる四角いなにかに気が付いた。

ドクンっと心臓が鳴った。

マリアと祐ちゃんが抱き合っている映像が目に浮かぶ。

あれは……ふたりが愛し合った証だ……。

「うぅ……うう……っ……」

なんでこんなことに……。

がっくりと肩を落としてうなだれる。

どこから狂ってしまったんだろうか。

あたしが咲綾をイジメたときから……?それとも、もっと前から……?

涙が溢れて止まらない。

あたしはこのまま誰にも必要とされず、この狭い部屋の中で命を落とすんだろうか……。

「助けて……。誰か助けて……」

咲綾をイジメたのは自分のストレス発散だった。

ただ、それだけだったのに……。

全身にかぶった生ごみの匂いにつられてか大量のゴキブリが体に這い上がってくる。

「いやぁ……いやぁぁ!!!!!!」

絶叫するあたしの声が誰かに届くことを願った。

でも、その願いは叶わないことをあたしは誰よりも知っていた。

ずっと我慢して尿意が限界を超える。

あたしは自分の糞尿と生ごみと大量のゴキブリとともに朽ちていく。

最低最悪の死に方だ。

それを受け入れることはできず、あたしは絶望の中必死になって死に抗った。




――あれから何日経ったんだろう。

部屋の中にはウジ虫で溢れ、耳障りなハエが飛び回っていた。

喉が渇いて口の中はカラカラだった。

口元にゴキブリが這いつくばる。

虫は意外にも栄養があるようだ。あたしはまだ生きている。

湿り気のない舌をゆっくりと出すとその上にゴキブリが乗りうつった。

そのままゆっくりと口の中へ導くと、ゴキブリは驚いたように口内から出て行った。

「クソっ、クソっ、クソっ!!!」

貴重な食料を失い絶望に駆られる。

あんなにいたゴキブリの数も残りわずかになってしまった。

早く卵を産んでくれないだろうか。

そうすれば、まだまだ食料は尽きない。

ああ、喉が渇いた……。

目をつぶると、そこはリビングだった。

父と母とマリアとあたし。4人がソファに座って楽しそうにテレビを見ている。

テーブルの上には色とりどりの料理と冷えたジュースが置かれている。

必死になって手を伸ばす。

でも、寸前のところでその手は届かない。

ハッと目を覚ます。いつの間にか気絶していたようだ。

「だれか……た……すけて」

もう枯れた声しか出ない。空腹で胃に穴が開きそうなほど痛む。

涙はもうとっくに枯れてしまった。

幻覚まで見たということはどうやらあたしはもうすぐ死ぬらしい……。

咲綾……イジメ返しは成功だよ。

あたしは今、失意のどん底にいる。

自分の死を自覚しながらあたしはそっと目を閉じた。