隠し事がある人間が刑事を前に堂々としていることはまずない。


里美…それとも吉沢杏奈と呼ぶべきか

この女も同じはずだ。


そして
隠していたはずの自分の名前を突然見知らぬ男に当てられて、

冷静でいられるわけがない。


「なら…もしかして、斎藤拓哉のことも知っていますか?」


それなのに彼女は真っ直ぐな強い目で、俺を睨み返した。


「っ…」


逆に質問で返す彼女の芯の強さに、こちらが面食らってしまった。


ただの女の子なのに

一人で川口組に乗り込んだり、

暴力団の一員と逃げたり、

目の前の刑事にまったくひるまない。


おそらく彼女の決意は並々ならないものなのだ。


「…あの事故は、やはり斎藤拓哉と川口組の仕業なのか?」