「にしても、そんな泣かなくていいのに」 目の前でにっこりと笑う推しは、いつも雑誌やSNSで見る写真とは少しだけ違っていて、イベントの舞台上で動く伊澄蒼とも、また少しだけ違っていた。 これがプライベートの顔ってやつだろうか。 「声掛けてくれてありがとう。また、イベントで待ってるね」 それだけ言うと、推しはハチ公改札方面へと姿を消した。 私の小さな小さな「はい」の返事は、伊澄蒼に届く前にこの雑踏にかき消された。