朝日に背を向けながら坂道を上り続けて30分。

ようやく私の家が見えてきた。


「凪くん、じゃあ、ここで」

「あ、うん...」


離れていく指に名残惜しさを感じた。

指の1本1本にまだ熱と痺れを感じる。

残る感覚が胸をジリジリと焦がしていく。

まだ...なんて思ってしまう。

そんな時、潮風は私に優しい。

そっと頬を撫でて空へとこのもどかしさをさらってくれる。

心地良い風に吹かれ、朝日の眩しさに目を細めると、凪くんが1歩2歩と私に近づいた。


「言い忘れてたこと、もう1つあった」

「えっ?」


凪くんはそう言うと、私の頭に手を乗せてゆっくりと優しく撫でてくれた。


「産まれてきてくれて、ありがとう」


私はその言葉を聞いてやっと実感が湧いた。

そうだった。

今日は...

12月26日は私の...

いや、私達の誕生日だ。

私は17歳になったんだ。

そっか...。

そうか...。

自分が産まれて来た意味が私にはずっと分からなかった。

周りが良く見える世界にいて、自分のことは真っ暗闇にいるみたいに見えなくて、ずっと生きてる心地なんてしなかった。

けど、こうして凪くんと出逢えて

産みの母に再会出来て、

凪くんともまた出逢えて、

自分を取り戻して、

自分ともう1度出逢えて、

私はやっと私になれた。

私が私として生きていることに意味を持てるようになった。

そして、これからも私は凪くんの隣で自分を探して、捜して、作って、色づけていくのだろう。


「凪くんも産まれてきてくれて、ありがとうございます。お誕生日おめでとう、です」


私の言葉に凪くんは笑った。

いつもぎこちないけど、

今日は一段とぎこちなく見える。

でも、それでも、いい。

少しずつでいい。

私達らしく、

明日へと、

未来へと、

歩いていこう。


晴れ渡る空の下で。