桜庭家は、玄関から涼しかった。
「ところで、あいつは?」
「健人? なら、部屋に」
「ふうん」
そっちから呼び出しておいて出迎えもなしですか、そうですか。
「でも……」
「ん?」と言う唯人君の声で、はっとする。
「いや、あいつ、意外といいお兄ちゃんだよね」
「うん……そうかもしれないね。普段は気にならないけど、うん。ちょっと考えてみると、すごい人かもしれない」
「唯人君たち、すごい愛されてるよ」
「僕も?」
「うん」
そのために、わたしが来たんだもん。
「ユイコだけじゃなくて?」
「ユイコ?」
ああ妹か、と納得したとき、「気安く呼び捨てすんな」と低い声が飛んできた。
「こらこら」と、唯人君がなだめる。
廊下の方へ目を向けると、ふんわりとしたショートボブの少女がいた。身長は、わたしより少し高いくらい。年下のくせに。
「双子の妹。僕と同じ唯に、子供の子と書いて、ユイコ」
彼女――唯子は、重厚感のある黒のヘッドホンを首に下ろすと、「失せろ」と大きな目で睨んできた。
なんかめっちゃ嫌われてる――!
「唯子、よしなよ。健兄が呼んだんだよ。相川さん」
「相川……文乃です」
よろしく、と頭を下げてみて、ゆっくり姿勢を戻すと、直後、ぴしゃりと、「帰れ」と返ってきた。
「あんたに用なんかない」
「ええ……」
問題児だ。あの二人の兄と一緒にいながら、どうしてこうなってしまったのだろう。
「まあ、そう言わずに」
どうぞ、と唯人君は言ってくれるけれど、唯子は一歩でも近づいたらつまみ出してやるくらいの目を向けている。……健人はどこにいるんだ。部屋ってどこだよ。自分の部屋ってこと? なにこもってるんだよ。助けろよ――!
「ところで、あいつは?」
「健人? なら、部屋に」
「ふうん」
そっちから呼び出しておいて出迎えもなしですか、そうですか。
「でも……」
「ん?」と言う唯人君の声で、はっとする。
「いや、あいつ、意外といいお兄ちゃんだよね」
「うん……そうかもしれないね。普段は気にならないけど、うん。ちょっと考えてみると、すごい人かもしれない」
「唯人君たち、すごい愛されてるよ」
「僕も?」
「うん」
そのために、わたしが来たんだもん。
「ユイコだけじゃなくて?」
「ユイコ?」
ああ妹か、と納得したとき、「気安く呼び捨てすんな」と低い声が飛んできた。
「こらこら」と、唯人君がなだめる。
廊下の方へ目を向けると、ふんわりとしたショートボブの少女がいた。身長は、わたしより少し高いくらい。年下のくせに。
「双子の妹。僕と同じ唯に、子供の子と書いて、ユイコ」
彼女――唯子は、重厚感のある黒のヘッドホンを首に下ろすと、「失せろ」と大きな目で睨んできた。
なんかめっちゃ嫌われてる――!
「唯子、よしなよ。健兄が呼んだんだよ。相川さん」
「相川……文乃です」
よろしく、と頭を下げてみて、ゆっくり姿勢を戻すと、直後、ぴしゃりと、「帰れ」と返ってきた。
「あんたに用なんかない」
「ええ……」
問題児だ。あの二人の兄と一緒にいながら、どうしてこうなってしまったのだろう。
「まあ、そう言わずに」
どうぞ、と唯人君は言ってくれるけれど、唯子は一歩でも近づいたらつまみ出してやるくらいの目を向けている。……健人はどこにいるんだ。部屋ってどこだよ。自分の部屋ってこと? なにこもってるんだよ。助けろよ――!



