「芽衣、好きだよ」

頬にやわらかい指先が触れ、かすかに肩が震える。
何度目か分からない優しい口づけを受け止めながら、うっすらと目を開いた。

端正な顔の向こう側に見えるのは、星屑のように輝くビルの光と、それに反射した運河……。
七色で彩った観覧車が視界に入り、さほど盛り上がっていなかった気分も少しだけ向上してくる。

(うん、今回は大丈夫そう。このまま、このまま……)

グッと腰を抱かれ、深く唇が重なったその時だった。

ピリリリリ! ピリリリリ!

けたたましくスマホの着信音が鳴り響き、どちらともなく大きく目を見開く。
同時に彼の吊り上がった眉尻が、よけいに上がったのを確認した。

(何このタイミング、さすがに今は無理……!)

着信音に負けじと彼も唇を重ねてくるけれど、遠慮なく『早く出ろよ』と着信音は鳴り響く。

案の定テンションは下落。どちらともなく体を離した。

(やばいでしょ、キスの最中に電話なんて……‼)

ハァーッと大きくため息を吐く彼を横目で見ながら、私は手探りで鞄の中から社用スマホを探し出す。

ディスプレイに表示されている着信元は、もちろん私のボス『藤堂快』だ。
一旦空気を変えるためにゴホンと咳ばらいをし、背筋を伸ばす。

「……お待たせしました、社長」

『今から急ぎでいつものラウンジまで来てくれるか。ルイも一緒なんだ』