■エピローグの翌日■


「俺たちはそろそろ休むべきだ。四年だぞ四年!」

「それは分かってる! でも」

先を急ぐ彼を、ガラガラとスーツケースを引きながら必死で追いかける。

私たちが今いるのは、シャルル・ド・ゴール空港の出国ロビー。
昨晩映画監督との会食があり、夫婦で参加するためにパリにやって来ていた。
仕事も山積みだし、いつもの出張のノリで終わったらすぐに日本に帰るつもりでいたのだけれど……。

「そこはなんとかしといてくれ。じゃ、明後日まで電源切ってるから」

ピッ!

(本当に切っちゃったよ)

快は長い脚を悠々と組みかえ、秘書の遠山君をいじめたのが楽しいのかニヤリと笑う。

(さすがに底なし明るい遠山君も、ブチ切れでしょ)

空港に到着してすぐ、日本行きのフライトチェックインカウンターを逆走した快は、急に『旅に出るぞ』と言い出した。

確かに、ここまで強引に行かないと連休がやってこないのは事実……!(涙)
CLBKの子会社になってから、私たちは結城家具再建のためほぼ休みなく働いていた。
夫婦の時間を持ちたいと考えてくれた優しさが嬉しいけど、社員たちへの罪悪感もちょっとある。

(うう。でも頑張ってたし、神様お休み下さい!)

「……あ、芽衣にこれ貸してやる。到着するまでに熟読しといてくれ」
「へ?」

ポイッと投げてきたのは、世界の歩き方「モロッコ」だ。

「も……モロッコに行くの!?」

(ってどこ!?)