「でっ、でも、ここはハッキリとお断りを入れないと。社長と付き合うことになったんだから!」

(正直実家の経営難を考えると不安にはなるけど、私は社長の言葉を信じることに決めた……それに、私の人生だ)

勇気を出して、お母さんに電話を掛ける。
と、ワンコールで出たのでドキッと心臓が跳ね上がった。

『おっ、お母さん……!』

『芽衣、久しぶり。青葉さんのお見合いの件なんだけど、どうかな?』

(うう、ですよね!)

ハァーッと大きく息を吐き、心を落ち着かせる。
きっとちゃんと伝えれば、分かってくれるはず……お母さんなら。

「その話なんだけどね……本当に申し訳ないんだけど、お断りしたい。
実は私、藤堂社長とお付き合いすることになったの! 私が秘書をしてる……」

『芽衣、どういうことなんだ⁉』

(ん?)

お母さんじゃない、ちょっと高めの低い声が聞こえてくる。
それは紛れもなく私の……。

「お父さん⁉ お父さんがなんで⁉」

私が大きな声を上げた瞬間、ガサガサガサッ! と鈍い音が聞こえてくる。

『芽衣……ごめん! 今スピーカーで話してたのよ! お父さんもどうしても芽衣の返事が聞きたいって‼』

そう言うお母さんの声よりも遠いところで、お父さんがギャーギャー言っているのが聞こえてくる。

(やっ、やば……お父さんにCLBKで働いてることも言ってないし、どうしよう)

サーッと血の気を引いていると、お母さんが息を切らしながら私に呼びかけた。

『と、とりあえず分かった! あなたは藤堂さんのことが大好きなのは前から知ってるし、結ばれてよかったわ。お見合いの件は、キャンセルね! お父さんには私から伝えておくから、その、色々!』

(お母さん……)