夜長の候、過ぎ去りし初恋の季節






新快速に三時間近く揺られて、
県を二つ(また)いで着いた、遠く離れた街。

そこで一晩一人で過ごした翌日。近くの公園や繁華街をぶらぶらして無理矢理連絡を取り付けて逢ったのは、
小学生のとき所属していた町内野球チームの友達、直政(なおまさ)だった。

俺の顔を見て、直政(なおまさ)は思わず表情を整えたように見えた。

直政(なおまさ)とは中学から別々だったが年に数回はこうして会う機会を作っていた。長年の仲ゆえに後から教えてくれたのだが、それほど俺の顔が怖かったという。疲れていたのだ。

緊張が溶けて背中がスッと楽になったのは、世間話を交えた夜の食事を終えてからだった。


「気にすんなって。俺の叔父さんがこの近くで最近ジャズバー始めたんだよ。ちょうど良かった、一回顔出しときたかったんだよ。内浜(うちはま)も一緒に行こう。」

直政(なおまさ)は高校進学と同時に野球を辞めた。同学年で大学四年。地元の工具販売を扱った企業に就職するらしい。



そんな話に耳を貸せるほど心が落ち着いてから、
彼と向かった先は真夜中まで営業しているジャズバーだった。


「JazzBar METORO?」
「そう、色んな人が行き交う交差点になりますようにって。名付けたらしい。」

そこは駅から少し離れた、レンガ造りの重厚な夜の雰囲気を持つバーで、
俺たち大学生には余りにも格式が高すぎるように感じた。
赤いクロスが掛かった小さい丸テーブルが不規則に並んで囲む奥には楽器を備えたステージがあり、バーカウンターには仰々しい数のワインや日本酒が並んでいた。

俺たちは適当に空いてるカウンターの端っこに腰掛けてうずくまった。



「……俺ミリタリーシャツにチノパンだけど大丈夫か」
「平気っしょ。てか内浜(うちはま)、前会ったときもそれ着てなかった?長く付き合ってる彼女がいるとオシャレ手抜くっていうよなぁ。はー羨ましい。」



するとマスターである直政(なおまさ)の叔父さんが他の客との談笑を終えてやってきた。


「おぉ直政(なおまさ)。一年ぶりだな。聞いたぞ、就職決まったんだってなぁ来てくれるとは思わなかったよ!……あんらま、友達? ゆっくりしてきな。」

叔父さんが注文を受けたカクテルを作るべく、後ろを向いたのを確認すると、直政(なおまさ)はため息をついた。



「なぁ内浜(うちはま)、暇なんだったら今夜は俺のナンパに付き合ってよ!就職先、研修行ったら男ばっかりなんだよ……。」
「それ分かってて選んだんだろ……工具販売って、女少ないに決まってるし」
「だーかーら、そこしか内定出なかったんだって。どっかに素敵な女の子いないかなぁー……。」


既にさっき行った定食屋で俺たちはアルコールが入っていて饒舌になっている。お互い自虐をして、手元に渡されたカクテルをぐびっと飲んだ。