ここで、嫌いだなんて言ったら、煮物を作ってくれたおばあちゃんにも申し訳ない。

小刻みに震える手で箸を煮物に近付けると、小さな人参に手を伸ばした。

そもそも、根菜類なんて口にした記憶が無い。

見た目が見慣れない物に恐怖を感じた為、目をつぶって口に運んだ。

柔らかな出汁の味がして、意外といける。

「美味しい……」
「でしょ!!」
「てか、ぶっちゃけ煮物なんて初めて食べたんだ……。でも、美味い!!」

そう言うと、煮込まれた油揚げに箸を伸ばす。

「え!陸、煮物食べた事無いの!?うちは、しょっちゅうおばあちゃんが作っていたよ!?
本当は、食べ過ぎて嫌いだったんだけど……、おばあちゃんが亡くなって食べれなくなったら妙に恋しくって……」
「料理作って貰えるなんて、羨ましいな……」

手料理に憧れていた。

ボソリと本音を呟いた俺を涙目で覗き込んだミチル。

「これからは、私がいっぱい料理作るよ!!」
「ありがとう」

ミチルの優しさが、嬉しい。

そんな事を思っていたら、箸を置いたミチルに抱き締められた。

「陸……。
辛かったね……」

そう。俺は辛かった。

「うん……」
「これからは、私が陸を守るよ……」