「ど、どうするんですか、そんな場所!ああ、だから場所を知っていても菅原先輩のご先祖様は誰も発掘できなかったんですね!?」
青ざめる魅亜だが、響一郎はあくまで冷静だった。
「いや、何人かチャレンジしている。ただし、成功した者は誰もいない」
「やっぱり、生きて帰って来ないとか?」
「いや、生きては帰ってきたがなぜか誰もが多くを語ろうとしない。地下で余程恐ろしい目に遭ったか、口外すると天神様の神罰が下ると思ったのか。ただ、代々の生還者の手によって作られた地図なら、我が家に伝わっているよ」
「地図?そんな便利な物があるならすぐ行きましょう!今すぐ先輩のお家に地図を取りに行って!」
やる気満々でベンチから立ち上がる魅亜。しかし響一郎は、彼女を落ち着かせようとする。
「待ちたまえ、鳥飼くん!少し状況を整理しよう」
「え?整理?あ、そうですね!今日は日曜だから天満宮はかなりの人出のはず……。やっぱり人目につかない夜になってから忍び込みますか?それならまだお昼だから、まずは腹ごしらえをして、その後に懐中電灯や軍手も用意して……」
着々と準備作業を進める魅亜に、やはり響一郎は待ったをかける。
「いや、そういう細々とした準備はいいんだよ、こちらでやるから。でも、本当にいいのかい、鳥飼くん?」
「と、おっしゃいますと?」
キョトンとした顔でそのまま響一郎を見つめる魅亜に、彼は慎重に言葉を選んだ。
「危険なんだよ、この発掘は……。最後に菅原家の当主が太宰府天満宮の地下に赴いたのは約80年前、第二次世界大戦の頃だ。恐らく戦時中のどさくさに紛れて侵入したのだろうが、その際の記録には地下内部はかなり破損していたそうだ。地下構造物が、道真公ご自身が造られたのか、それとも公の死後、子孫や道真公の信奉者が造ったのかは解らないが、多分後者の可能性が高い。配流後の道真公は著しく体調を崩されていたからね。だとしてもざっと千百年前の建造物だ。老朽化による崩落の危険があるんだよ」
「でも、そこに行けば天神様の宝物があるんでしょう?」
「誰も実物を見た者はいないよ」
「だけどそこへ行かなければ、田部井ちゃんは助けられないんです」
魅亜はそういうと、空を見上げた。
「勝手に天満宮に侵入したら警備員に見つかって不法侵入になります。運良く発見されなくても、天神様の罰が下って地下に埋まっちゃうかもしれない。そもそも宝物なんてないかもしれない。それにあったとしても遺失物扱いになるから、宝物のほとんどは地権者に取られてしまうんですよね、解っています。だけど……」
魅亜は青空に向けていた瞳をゆっくりと響一郎に戻す。
「それでも私は、天神様の元へ行きます。ほんの少しでも可能性があるのなら、私は田部井ちゃんを助けたいんです」
魅亜はこれまで、響一郎が見たこともない強い眼差しで彼を見つめる。
しばらくの間、魅亜と響一郎は見つめ合う。
それはほんの短い時間だったが、響一郎とっては彼女の決意がいかに堅いか納得するのに十分な時間だった。
「解ったよ。まったく、君という人は……。祖父と父が君を隠し天女に選んだ時は、何も知らない女子生徒になんて酷い仕打ちをと反発したが……。凄いな、あの2人は誠実に信念を貫き通す、君の隠し天女の資質を見抜いていたとは──」
「あの、先輩?」
「悪かったよ、鳥飼くん!僕は今まで君を祖父達に利用される可哀想な被害者なんだと勝手に思い込んでいた!だから僕が君を大人達から守るんだと意気込んでいたんだよ」
「先輩……」
「だけど今からは違う。僕に協力させてくれるかい?君が親友を助けるための命がけの冒険を──」
「ダメです、先輩!そんな危険な場所には私1人で行きます!先輩は地図だけ貸して頂ければ」
響一郎の申し出は嬉しい。とても嬉しい。しかし、そんなとんでもなく危険な魔境に響一郎を行かせる気は魅亜にはなかった。
だが残念な事に、魅亜の心配は肝腎の彼にはまったく伝わらない。
「そうは問屋が卸さないよ、鳥飼くん!言わなかったかな?天神様の宝物まで辿り着くには、隠し天女と当主、または次期当主の2人が必要なんだよ。それにこんな面白そうな冒険を君1人で満喫するなんて欲張りだな。ぜひとも僕も連れて行ってもらうからね!!」
ベンチから勢いよく立ち上がると得意げに眼鏡のフレームをクイッ!と持ち上げる響一郎。
感激して胸が一杯になって何も言えない魅亜の手を取るとこう言った。
「さあっ!そうと決まれば腹ごしらえだね!何もないけど僕の家で昼食をどうだい?その後、早速地下攻略の作戦会議を開こうじゃないか!!」
「はい!先輩!」
魅亜は少しだけはにかんで微笑み、響一郎はニッコリ笑うと、2人は手を繋いだまま公園から駆け出した。
青ざめる魅亜だが、響一郎はあくまで冷静だった。
「いや、何人かチャレンジしている。ただし、成功した者は誰もいない」
「やっぱり、生きて帰って来ないとか?」
「いや、生きては帰ってきたがなぜか誰もが多くを語ろうとしない。地下で余程恐ろしい目に遭ったか、口外すると天神様の神罰が下ると思ったのか。ただ、代々の生還者の手によって作られた地図なら、我が家に伝わっているよ」
「地図?そんな便利な物があるならすぐ行きましょう!今すぐ先輩のお家に地図を取りに行って!」
やる気満々でベンチから立ち上がる魅亜。しかし響一郎は、彼女を落ち着かせようとする。
「待ちたまえ、鳥飼くん!少し状況を整理しよう」
「え?整理?あ、そうですね!今日は日曜だから天満宮はかなりの人出のはず……。やっぱり人目につかない夜になってから忍び込みますか?それならまだお昼だから、まずは腹ごしらえをして、その後に懐中電灯や軍手も用意して……」
着々と準備作業を進める魅亜に、やはり響一郎は待ったをかける。
「いや、そういう細々とした準備はいいんだよ、こちらでやるから。でも、本当にいいのかい、鳥飼くん?」
「と、おっしゃいますと?」
キョトンとした顔でそのまま響一郎を見つめる魅亜に、彼は慎重に言葉を選んだ。
「危険なんだよ、この発掘は……。最後に菅原家の当主が太宰府天満宮の地下に赴いたのは約80年前、第二次世界大戦の頃だ。恐らく戦時中のどさくさに紛れて侵入したのだろうが、その際の記録には地下内部はかなり破損していたそうだ。地下構造物が、道真公ご自身が造られたのか、それとも公の死後、子孫や道真公の信奉者が造ったのかは解らないが、多分後者の可能性が高い。配流後の道真公は著しく体調を崩されていたからね。だとしてもざっと千百年前の建造物だ。老朽化による崩落の危険があるんだよ」
「でも、そこに行けば天神様の宝物があるんでしょう?」
「誰も実物を見た者はいないよ」
「だけどそこへ行かなければ、田部井ちゃんは助けられないんです」
魅亜はそういうと、空を見上げた。
「勝手に天満宮に侵入したら警備員に見つかって不法侵入になります。運良く発見されなくても、天神様の罰が下って地下に埋まっちゃうかもしれない。そもそも宝物なんてないかもしれない。それにあったとしても遺失物扱いになるから、宝物のほとんどは地権者に取られてしまうんですよね、解っています。だけど……」
魅亜は青空に向けていた瞳をゆっくりと響一郎に戻す。
「それでも私は、天神様の元へ行きます。ほんの少しでも可能性があるのなら、私は田部井ちゃんを助けたいんです」
魅亜はこれまで、響一郎が見たこともない強い眼差しで彼を見つめる。
しばらくの間、魅亜と響一郎は見つめ合う。
それはほんの短い時間だったが、響一郎とっては彼女の決意がいかに堅いか納得するのに十分な時間だった。
「解ったよ。まったく、君という人は……。祖父と父が君を隠し天女に選んだ時は、何も知らない女子生徒になんて酷い仕打ちをと反発したが……。凄いな、あの2人は誠実に信念を貫き通す、君の隠し天女の資質を見抜いていたとは──」
「あの、先輩?」
「悪かったよ、鳥飼くん!僕は今まで君を祖父達に利用される可哀想な被害者なんだと勝手に思い込んでいた!だから僕が君を大人達から守るんだと意気込んでいたんだよ」
「先輩……」
「だけど今からは違う。僕に協力させてくれるかい?君が親友を助けるための命がけの冒険を──」
「ダメです、先輩!そんな危険な場所には私1人で行きます!先輩は地図だけ貸して頂ければ」
響一郎の申し出は嬉しい。とても嬉しい。しかし、そんなとんでもなく危険な魔境に響一郎を行かせる気は魅亜にはなかった。
だが残念な事に、魅亜の心配は肝腎の彼にはまったく伝わらない。
「そうは問屋が卸さないよ、鳥飼くん!言わなかったかな?天神様の宝物まで辿り着くには、隠し天女と当主、または次期当主の2人が必要なんだよ。それにこんな面白そうな冒険を君1人で満喫するなんて欲張りだな。ぜひとも僕も連れて行ってもらうからね!!」
ベンチから勢いよく立ち上がると得意げに眼鏡のフレームをクイッ!と持ち上げる響一郎。
感激して胸が一杯になって何も言えない魅亜の手を取るとこう言った。
「さあっ!そうと決まれば腹ごしらえだね!何もないけど僕の家で昼食をどうだい?その後、早速地下攻略の作戦会議を開こうじゃないか!!」
「はい!先輩!」
魅亜は少しだけはにかんで微笑み、響一郎はニッコリ笑うと、2人は手を繋いだまま公園から駆け出した。



