ナツ君は私たちのやりとりがまるで見えていないかの如く、いつまでもミロと対峙し続けていた。



いまだコップから手を離すことはない。



もうすでにミロの虜になっていることは火を見るよりも明らかだった。


やがてナツ君はミロの入ったコップをトロフィーみたいに掲げた。



「これを見てよ幸助。庵歩ちゃんがさ、このなんかバカに美味しい飲み物をくれた。これはすごい、魔法の飲み物だ」



 幸助はナツ君の手元を覗き込んで「これは一体なんですか?」と訝る。

「……ただのミロですよ」と私は答えた。



 ミロをこよなく愛す私がミロをさして「ただ」なんて、まるで軽々しいもののような物言いになってしまったことが、ものすごく心苦しい。



本当は「これは飲むと幸せな気分にさせてくれる摩訶不思議な魔法の飲み物なんです!」と言いたかった。



でも言った瞬間から不審人物の烙印を押されること請け合いだ。



「ただのミロ」



……くそぅ、私になんてことを言わせるんだ、幸助。


「ああミロでしたか、確かに美味しいですよね」


あからさまにホッとした様子の幸助に、むっとしたが美味しいと言ってくれたから、ちょっと許す。