「俺さ、ほんとは昨日、お前に言わなきゃいけないことがあって家に行ったんだ。
あんな風な別れ方になっちゃったけど、あれが最後にならなくてよかった。こうやって庵歩がきてくれたお陰だな」
最後ってなに? 冗談を言って私をからかっているわけでは無い、ようだ。
もはやそれは私の希望的観測だった。
諦念したように遠くを見つめる彼がタチの悪い冗談を言うようには見えない。
「ど、どういうこと?」
「大学、辞めたんだ」
珠手は上を見上げて長い間一人暮らしをしてきたというこのマンションを眺めた。
「この家からも出て行く。もちろんこの街からも」と言う。
「……ほんとにやめたの、学校」
「うん、ほんと。つうかなんて顔してんだよ。別に泣くことはねえだろ?」
珠手の口調は空元気そのものだった。
「な、泣いてないけど」
強がりでもなんでもなく、ほんとに私は泣いていない。



