「いえ、大した理由はないんですけど……。ナツがいつもそう呼んでるから」


 この際私も、幸助さんと呼ぶことにしようか。とはいえ地の文じゃ勝手に呼びすてで呼んでたけど。


「じゃあ私は幸助さんって呼ぶんで、私のことは庵歩って呼んでください」

「俺の方こそ、呼び捨てでいいんですけど」


 幸助はもじもじして言った。


 –––––––幸助がいいならそうしますけど。


「じゃあそういうことで」


 どれだけ突拍子もないタイミングだったとしても、歩み寄ろうとしてくれること自体、すごく嬉しい。



何度か引っ越しも経験したけれど、ただ家が隣同士だからといって仲良くご飯を食べたり、荷解きを手伝ったりすることはなかった。



今の時代、ご近所付き合いは希薄だ。あっても挨拶を交わすくらい。


思い出すのは小学生の頃、知覚の家の友達の家と自分の家を行ったり来たりしたこと。
今の生活はまさにそれをなぞっているみたいだ。