庵歩の優しい世界





 私が開いた段ボールに入っていたのは


『五歳児の心丸わかり大全』

『子供の風邪は油断大敵、予防と対処法』

『初めての料理』


など、ナツ君に関係するような本がたくさん詰まっていた。幸助の健気な努力を感じる。



彼は今まで自炊してこなかったんだろうなと思った。

だから料理の練習を。

だって、全然荷解きが終わってないのに、キッチンにはフライパンが壁にかかってたし。食器もダンボールには入ってなかった。



––––––––––ん? んん? 



 フライパンがかかってるのに、開けっ放しにされている食器棚に食器が入ってない………。



 嫌な予感を覚えて、シンクを覗くと。覗き込むまでもなく、ああ、やっぱり。



––––––––ぐっちゃぐちゃになった食器と、失敗したと見える黒い塊、焦げついたお鍋が盛りだくさんになっていた。



 ふと幸助を見ると、目があった。彼は気まずそうに目を泳がせていた。



「それは、あの……失敗しちゃって」



 数秒前まで段ボールを開けては

「そうだった、スピーカーも持ってきてたんだった」とご機嫌に荷解きをしていた幸助だったが、

今やものすごく肩身が狭そうだった。



こんなことでべつに怒らないのに。