庵歩の優しい世界



「ねえねえ、庵歩ちゃん」


 私も手伝うかとおびただしい段ボールの山と向き合ったとき、ナツ君に袖を引かれた。

チラチラと幸助の方を伺いながらの小声だった。うむ、内緒話か?



 なになに?



「実はさ、庵歩ちゃんが来るちょっと前に幸助言ってたよ。

『庵歩ちゃんに荷物の整理手伝ってもらおうかな』って。

『やっぱり、ずーずーしいかなあ』とか、言ってた。

なのにあんな風にしょーがないなあとかぼやいて、ほんと素直じゃないよね。庵歩ちゃんがきて喜んでるのバレバレなのに」


「私、なんでも屋じゃないんだけどなあ」


「僕も幸助もそんなことは思ってないよ。だって幸助、いっつもあっっ……⁉︎」


私の前を影が横切る。


「こら!!ナツ〜??」

幸助がすっ飛んできた。そしてこめかみをヒクヒクさせて、ナツ君の口を塞いだ。

「なんか今、いらんこと喋ろうとしたんじゃないだろーなー?」



「&%$#っ……!」


 声にならずにモゴモゴと抵抗している所も可愛い。


 ナツ君が何を言いたかったのかは結局分からずじまいで、

というか、幸助が「さあさあ荷解きやりましょう」と変にやる気を見せて、煙に巻かれた。