週末、私はアニメとラノベの聖地『楽葉原(らくはばら)』にいた。
 いよいよ今日は、成瀬君とふたりきりの初デートなのだ。

 待ち合わせ場所は駅前である。
 楽葉原は駅だってアニメとラノベ一色。
 ああ、なんという幸せ空間。

 私がハッピーに「ほわん」としていると、成瀬君が現れた。
 手を振っている。
 
 「現れた」って何だか、独特のBGMとともにRPGで出現する敵キャラみたい。
 
 いえ、成瀬君は違う。
 私の最大の味方キャラだ。
 つい、くすりと笑ってしまう。 

「おう! お待たせ、お待たせ!」

「うふふっ、大丈夫、まだ待ち合わせ時間の10分前だよ」

「ははは、何だよ、にやにやして」

「ちょっと思い出し笑い」

「はあ? ちょっと思い出し笑い? まあ、いいや。ちなみに、ゆいはいつ来たんだよ」

「うん! 来たのは1時間前」

「おいおい! 早すぎるだろ」

「ノープロブレム。駅に貼ってある広告とかじっくり見てたから、全然大丈夫。楽しかったぁ!」

「おお、分かる分かる。ここ駅も含めて天国だもんな」

「あはは、だよねっ!」

「ああ、俺達オタクにとって楽葉原は最高の場所さ」

 そんな会話をしながら私は心の中で「ごめんなさい」って謝った。
 楽葉原は素敵な聖地。
 だけど私が待ち合わせの1時間も前に来たのはそれが理由だけじゃないんだ。

 謝ったのは、素直に理由を言えなかったから……

 早く来たのは、成瀬君とふたりで会えるからなんだ。
 嬉しすぎて、心が躍ったから。

 最近、屋上ランチが大混雑。
 友だちが大勢増えたのは、とても嬉しいけど……
 成瀬君とふたりきりで話す時間がだいぶ減っていたから。

 そんなことを「つらつら」考える私へ、成瀬君は午前中の予定を言う。

「えっと! まずはアニメショップで新作アニメのグッズ、それからラノベ専門書店で新刊をそれぞれチェック。ランチはアニメとタイアップのコラボカフェランチでOKだよな」

 となれば、私は午後の予定を言おう。

「ランチしたら、ゲームセンターで対戦ゲームとアニメのプリクラ、最後は歩行者天国通って帰るん……だよね!」

「おお、その通りだ」

「うん! じゃあ、成瀬君、行こう!」

「おう! ゆい、行こう!」

 成瀬君はにっこり笑うと手を差し出した。
 もうお約束。
 私もしっかり成瀬君の手を握り……ふたりは歩きだしたのである。